2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2019年1月16日

 大学や専門学校などの高等教育機関にいる外国人留学生は19万人近い(2017年度)。うち、中国人は約8万人で、42.2%を占め、留学生数の増加を牽引してきた。08年に策定された20年をめどに留学生数を30万人にするという「留学生30万人計画」に、なくてはならない存在だ(高等教育機関に限らない留学生数は、17年度は約27万人)。中国人留学生の受け入れは、日中国交回復の翌年の1973年から始まり、78年の日中平和友好条約締結後に本格化した。40年の間に、留学生の層や来日目的はどう変化したのか。3回のシリーズで探る。

(stevanovicigor/Gettyimages)

日本の優先度は低下

 「一番行きたかったのは、アメリカ。でも、お金がかかるのが、ハードルでしたね。付き合っていた彼が日本に留学したこともあり、日本を選びました」

 「もともとイギリス留学を考えていましたが、留学費用が高いし、日本のようにアルバイトをすることができません。修士課程は1年間と短く、就職が極めて難しい。修士課程が2年間の日本の方が社会と文化になじめる時間があるし、卒業後の就職環境もイギリスに比べ恵まれています。距離も、文化も中国と近く、安心感のある日本を選びました」

 日本の大学の修士課程に在籍している20代半ばの知人女性2人から、日本が留学先の第一候補ではなかったと聞かされ、驚いた。2人は日本語が流暢で、冒頭の発言をした女性は日本企業への就職が決まっており、もう1人はこれから日本で就活予定だ。話し方もファッションも、礼儀作法も、すっかり日本式が板についていて、もともと日本留学を目指していたに違いないと勝手に思い込んでいた。

 筆者が学部生だった10年前は、身近にいる中国人留学生に訪日理由を聞けば、アニメが好き、昭和の全盛期のころの日本映画が好き、鉄道オタクだから……といったコアな答えが返ってくることが多かった(もちろん、自分の研究領域では日本が先端を行っているからという真面目な答えもあった)。当時の頭のままで今の留学事情を捉えてはいけないということを、冒頭の会話で思い知らされた。

 「今、中国人の大学院進学の第一候補は欧米で、第二が中国国内。これは欧米に留学した教授陣が中国に戻ってきて、かつ研究施設も良くなり、中国国内のレベルが上がってきたから。かつて日本に来る理由には、日本で就職することもあったと思うけれども、就職の面でも中国国内の企業の条件が良くなってきている。日本への留学は、人数こそ減っていないけれども、質の面では、昔ほど超一流の人は来なくなっている」

国立研究開発法人 科学技術振興機構上席フェローの沖村憲樹さん

 こう解説するのは、国立研究開発法人 科学技術振興機構上席フェローの沖村憲樹さん。

中国で進む留学の市場化

 同機構では、『外国人留学生の受け入れと日本経済・日本企業に対する貢献に関する調査』を2017年にまとめている。その中で、「中国人留学生派遣の5段階論」を紹介している(51、52ページ)。第1段階(1978~84年)は公費留学、第2段階(85~89年)は私費留学の始まり、第3段階(90~91年)は公費留学生が帰国しないことが問題化、第4段階(92~99年)は留学仲介業者の出現、第5段階(2000年~)は留学仲介業の発展と留学事業の市場化――としている。第5段階にある今は、60%の中国人留学生は仲介業者によって派遣されているとも言われる。

 2015年のデータで、中国人の留学先1位は米国、2位オーストラリア、3位カナダ、4位日本、5位英国となっている。「日本以外はすべて英語圏であることを考えると、ある意味健闘している」と沖村さん。

 同機構の調査では、中国の留学仲介業者に各国の留学費用について聞き取りをしている(63ページ)。実際の費用と、仲介業者の回答した費用は必ずしも一致しないそうだが、参考までに紹介すると、1位米国、2位英国、3位オーストラリア、4位カナダ、5位ドイツ、フランス、オランダ、8位ニュージーランド、9位イタリア、10位日本となっている。1位の米国の年間の概算費用が20万~35万元(約340万~600万円)なのに対し、日本は年間3万~8万元(約51万~136万円)。経済的な理由で日本を選ぶ学生が多いのもうなずける。


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