この時期、日米防衛当局のトップ同士が会談を行なったことには、大きな意義があった。
まず、マティス前国防長官の辞任で、国防総省のトップが変わり、日本でも岩屋大臣が2018年10月に就任して、日米双方の国防トップが交替する中、十分な意思疎通をしておく必要があった。
特に、北朝鮮を含む朝鮮半島情勢は、2月末の第2回米朝首脳会談も控え、重要な議題だった。個別の目の前の事案では、2018年12月20日の韓国駆逐艦による海上自衛隊哨戒機に対するレーダー照射の件が長引き、どうしようかとの問題があった。が、この問題は、地域情勢全体の把握をしなければ、真意は見えてこない。そのことを、日米防衛トップがすり合わせ、認識を再確認したのである。レーダー照射問題に関し、1月14日、日本と韓国は、シンガポールで実務者協議を行なったが、結局、事実関係の認識でも折り合わず、1月22日、訪米帰国後の岩屋防衛大臣は、本件協議の打ち切りを発表した。訪米中に、同盟国の米国には、何等かの報告と意見交換を行っていたはずである。
上記の防衛省ホーム・ページの抜粋箇所にもあるように、岩屋大臣の訪米時、北朝鮮に関しては、核兵器のみならず、「全ての大量破壊兵器」の破棄を求め、ICBM(長距離の大陸間弾道ミサイル)のみならず「あらゆる射程の弾道ミサイル」を対象にし、その方法も、「完全な、検証可能な、かつ不可逆的な」(CVI)方法によることを、日米双方で確認した。
北朝鮮に宥和的な韓国の文在寅政権が、海上自衛隊による北朝鮮に対する監視を妨害するために、韓国軍がレーダー照射したのではないか、との憶測もある中で、日米双方は、北朝鮮に対する「国連制裁決議の完全な履行」及び、そのための「瀬取り」等の防止協力を確認した。また、その協力には、日米のみならず、有志国、すなわち豪州、英国、フランス等が加わることも日米で再確認された。実際、1月23日に防衛省内で行われた日豪防衛相会談でも、このことは協議された。
もう1つ、今回の岩屋大臣の訪米で重要だったのは、より中長期的な指針が日米双方で決定されたり発表されたりした直後だったことだ。日本では、2018年12月18日、平成31年度以降の新防衛計画の大綱と、それに基づく平成31年度から5年間の中期防衛力整備計画が閣議決定された。米国では、1月15日、国防総省の傘下にある国防情報局(DIA : Defense Intelligence Agency)が、中国の軍事力に関する報告書を発表した。米国の報告書の中では、中国の宇宙開発やサイバー部隊が強調されている。一方、日本の新防衛大綱では、宇宙やサイバー空間での日本の防衛を強化することが謳われた。そして、それを日米が共有するかのように、上記の国防総省の発表にもあるように、日米双方の防衛トップは、宇宙やサイバーでの日米協力を話し合ったのである。
加えて、中国に対しては、南シナ海や東シナ海での一方的行動を許さないこと、また尖閣諸島に関しては、日米が協力して対処することが、明確化された。これは、大きな抑止力になると思われる。
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