インド経済を読む

2019年2月26日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

日系企業の数字を狂わせる「2つのからくり」

 日系企業がアンケートで嘘をついていることはあり得ないので、やはり「数字」の上では間違いなく黒字を計上している。それに加えて、現地ではインド人会計士の会計監査がすべての会社に義務付けられているので、その点でも法的に何ら問題はないはずである。

 では一体何が原因なのか。実はこの数字には2つの「からくり」があるのだ。

 1つめが「移転価格税制に起因する『強制的な黒字化』」である。

 移転価格税制とは、ある企業とその企業の海外関連会社との間で取引がある場合、その取引金額の妥当性を検証するという税制での考え方である。関連会社との間の価格設定はある程度融通が効くことを利用して、税率の低い国へ企業が所得を移転するのを防ぐために各国ではこの制度が設けられている。例えばインドでは、その取引価格が関連会社でない独立した別企業との取引と比べ大きな乖離がないというインド人会計士の証明書を取得する必要がある。

 その理論であれば、その取引価格が実際独立した別企業との取引価格と同じであれば問題ないはずだが、インドの場合それだけではない。慢性的な税収不足に悩むインドでは実務上「最終的に法人税をインドに落としているか」を最重視する。要は「インドに税金を落とす価格が正しい価格」という傾向があるのだ。

 その結果インド税務当局の目が気になるインド人会計士は、インドに利益が残る価格にしかGOサインを出さなくなり、結果取引の経済的実体からは乖離した「黒字企業」が出来上がってしまうのである。

 ビジネスは「みずもの」である。あるべき価格で取引をしても赤字になる時も当然あるだろう。しかしそんな経済的実体よりも「税金が落ちるか」が重視される実情のため、実際は赤字の企業であったとしても移転価格税制の結果、黒字企業に変わってしまうことが少なくないのだ。

 2つめの理由が「人件費」

 製造業を除けば日系企業におけるほとんどのコストは人件費である。さらにその中でもかなりのウェイトを占めるのが「日本人駐在員の人件費」となる。これは彼ら彼女らの給料がもともと高いというのも理由の一つであるが、日本よりも苛烈なインドの個人所得税において駐在員の「手取り」給与が保証されるようにするための「グロスアップ計算」によりその額面金額が膨らんでしまうのである。そしてこの「税込み人件費」があまりに巨額になるため本社より規模の小さい現地法人では負担できず、結果その金額のうち何割かを日本本社に負担させている現地法人が多い。これが所謂「留守宅手当」と呼ばれるものである。

 もちろんこの留守宅手当は原則、日本本社で損金として落とすことも認められており、またインド側としても、留守宅手当にかかるインドの個人所得税さえ納税していればあまり大きな問題になることはない。

 ただ、日本人駐在員が実質100%現地法人の業務に注力している実態に注目すれば、理論上はこの留守宅手当もインド現地法人が負担すべきものである。本来現地法人が負担するべき人件費の一部を日本本社が肩代わりしていると考えると、インド現地法人の利益はあるべき実態よりも大きくなってしまっているのである。

 これら2つの理由より、インドの日系企業の利益は「実態」よりも「数字」が大きくなってしまうのである。これが現地のインド人会計士が感じている「からくり」なのだ。

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