インド経済を読む

2019年2月26日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

それでも日本企業が「実質赤字」で苦戦する理由

 しかし、もし日系企業が十分な売上と利益を確保できていれば、この2つの「からくり」を含めても現地での「体感」と「数字」はそれほど乖離しなかったはずである。つまりインド人コンサルタントが感じている「体感」には、実際まだまだ理由があるのだ。

(1)人件費の高騰

 先ほど述べたように、日本人駐在員の人件費も現地法人の利益を圧迫する原因だが、一方でインド人従業員の人件費も他のアセアン諸国と比べ低くはなく、その昇給率は10%を超えている。多くの日系企業は生産拠点というより、13億の人口の内需を狙って進出しているとはいえ、この人件費の高騰問題は看過できない事態になってきている。

(2)日本製品のシェアが取れない

 ソニーのように現地で崇拝されている商品はあるものの、アセアン諸国ほど日本ブランドの認知度は高まっていない。インドの家電量販店に展示されている商品の8割は韓国製、1割がインド製、のこり1割が日本製といったイメージだ。また、中間層が育ち切っていないインドの市場では、「安かろう悪かろう」が売れる傾向があり「高くて高品質」の日本製品はこの点でも苦戦を強いられている。

(3)「Make in India」を誘導するインド政府

 2014年のモディ政権樹立以降、インドはその膨大な若年層の雇用を吸収するため、「Make in India」のスローガンのもとに製造業の誘致に躍起になっている。つまり日本企業が中国でやったような「生産拠点としてのインド」を目指しているのだ。そうなると日本企業も中国での成功体験が活きそうなものであるが、何事も一筋縄ではいかないのがインド市場、そこにもう一つ、インド政府の注文が入るのである。

 2017年7月に鳴り物入りで導入されたGST(日本でいう消費税)は、軽減税率の導入でひと悶着している日本から見ると「狂気の沙汰」と言えるほど多くの税率が存在する。ほとんどの場合は18%なのだが、特殊な材料や農作物にはこまかな税率が設定されている。そしてこのGSTの税率は、その物品を輸入した際の関税の負担率にも影響を及ぼす仕組みになっている。

 GST導入時、まだその税率が不明確な物品がたくさん存在したが、その後に出た通達や、2018年2月に発表された予算案により、徐々にその税率が確定された結果、インドに生産拠点を置く企業が輸入する「材料」の関税負担が重くなるようどんどん誘導されていったのだ。これはつまり、「材料が欲しければインド国内で調達しろ」ということだ。すでに生産拠点と調達先と販路を作り上げていた日本企業にとって、ビジネスモデルそのものの見直しを迫られるインパクトがあるものとなり、結果業績の低迷につながった。

 こうして日系企業が直面する問題点を並べてみると、インドはまだ大企業でなければ難しい市場であることがよく分かる。必要な条件は、(1)高まる人件費を吸収できる資本力 (2)市場シェアを獲得できるブランド力 (3)流動的な税制に対応できる間接部門の強さ…である。

 そこで、これらをカバーするため、現地ローカル企業とのジョイントベンチャーを選択する中小企業も多いのだが、その場合、海千山千のインド企業との条件交渉という難題を抱え込むことになる。ECBローン(対外商業借入)などを用いて極力インド企業の持分割合を少なくする、月次決算の義務化による管理会計の強化など、細やかな対策が必要になる。

「中国での成功体験が通用しない」と皆が口にする巨大市場インド。「黒字企業が増えている」という日本での報道をそのまま鵜呑みにすることなく、現地の最新の実情に合わせた対策を常に模索する必要がありそうだ。

  
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