2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年10月18日

 胡氏はこうした失敗に学習したとみられ、05年3月、台湾への武力行使に法的な根拠を与えた反国家分裂法を制定後、それを免罪符とするかのようにはっきりと柔軟姿勢に転じた。台湾を「中国の一地方」と下にみるような言い方はやめて、中台の対等な立場での関係強化を呼び掛け、共産党と国民党の党間交流を活発化させた。そして08年に台湾の国民党が民進党から8年ぶりに政権を奪還して以降は、中台間の貿易自由化のための経済協力枠組み協定(ECFA)を締結するなど、92年合意を基礎に経済を中心とした関係の強化に努めてきた。

選挙向けに「台湾の存在」を誇示した馬英九

 台湾の馬総統は10日、台北で開いた「中華民国建国100年」の祝賀行事で演説し、4年ぶりの軍事パレードを行った。馬氏は孫文が理想とした「民主、自由、均富の国」の建設に取り組むよう中国に呼び掛ける一方、「中華民国」としての台湾の繁栄ぶりを誇示し、国防の重要性も強調してみせた。

 馬氏は「民主台湾が体現する活力と生活方式は華人世界のお手本だ」と自賛し、経済的な繁栄のほか、科学技術、環境保護、文化の発信、市民団体やボランティアの活動まで先進的で多様な台湾住民の暮らしぶりを誇った。

 対中関係については、92年合意および馬氏が主張してきた「3つのノー」(統一せず、独立せず、武力を行使せず)の原則に基づく関係修復という就任後3年間の成果を強調し、今後もこの政策を継続する方針を明確にした。

 台湾の経済界は中台関係の改善を歓迎しているが、民進党支持者など独立志向の強い住民には「無原則に接近を続ければ、台湾は中国にのみこまれてしまう」との懸念も根強い。馬氏が演説で、中国と一線を画す台湾の独自性や国防重視を強調したのは、中国寄り政策への有権者の懸念を極力抑え、台湾人意識を強める無党派層の票をより多く取り込んで再選を確実にしたいという思惑があってのことだ。

 馬氏と総統の座を争う民進党の蔡英文主席は10月初め来日し、与野党の政治家と交流して総統候補としてのお披露目をした。離日前の記者会見で、蔡氏は辛亥革命記念行事について「台湾の主権を損なってはならない」と中台双方にくぎを刺した。

 辛亥革命100年の中台首脳の演説は、表向きは「平和統一呼び掛け」「民主台湾の自立性」という対立軸を強調して見せた。しかし、両首脳はともに「92年合意」に言及して、引き続き中台関係を強化していく方針を示した。演説からは、中国が馬総統再選を後押しするという水面下の合意が読み取れた。

 中国の外交筋は、馬氏の演説や軍事パレードに目くじらを立てることもなく、馬氏が総統選で破れたら「(中台関係にとって)よくない。民進党が今の関係改善の枠組みを引き継ぐかどうか心配だ」と述べ、中国政府が馬氏再選を望んでいることを認めた。胡氏の演説は、馬氏の得票を減らすことがないように入念に配慮されていたのだ。

写真展から消えた日本

 長崎出身の実業家、梅屋庄吉は孫文の革命理念を支持し、多額の財政援助を行った。昨年来、日中の各地で、孫文と梅屋に関するシンポジウムや、2人の交遊を示す手紙や写真などの展示会が開催された。菅直人前首相は自分の誕生日が辛亥革命と同じ10月10日という思い入れもあってか、今年初めの演説で、梅屋の名を挙げて「日中両国民の交流をさらに深める努力が必要だ」と述べていた。

 辛亥革命の発端となった武昌蜂起の舞台、湖北省武漢市の辛亥革命博物館などでは11日、長崎県と革命の関わりを紹介するコーナーも設置された。

 しかし、日中関係筋によると、中国側は、本番の10月10日前後に首都北京で開こうとした梅屋シンポジウムについて、さまざまな理由をつけて受け入れなかったという。中国共産党政権が正史の中で描く辛亥革命の中に、梅屋ら日本の友人たちの支援をプラス要素として位置付ける余裕はまだないようだ。


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