2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年10月18日

 9月29日、東京で開かれた中国建国62周年のレセプション会場の一角に辛亥革命100年の写真展示コーナーが設営された。その中に日本は「対中侵略」というマイナスの史実だけで登場した。蒋介石と毛沢東、胡錦濤と連戦という国共指導者のペアの写真はあるが、孫文と梅屋の写真はない。周恩来首相とキッシンジャー米国務長官という米中国交正常化の立役者の写真はあったが、日中国交正常化を実現した周恩来首相と田中角栄首相の写真はなかった。

 長年、日中友好に貢献してきた日本の友好人士は「米中国交正常化の写真をはずすか、日中国交正常化の写真を加える配慮がほしかった」とぼやいた。この日は日中共同声明に署名し、国交が正常化された39周年の記念日でもあった。在日中国大使館員は「辛亥革命の写真展は文化省の企画・制作であり、世界各地の中国大使館で同じものを展示している。日本の分だけを変えるわけにはいかない」と釈明した。

 つまり共産党のイデオロギー統括部門、中央宣伝部と直下の文化省が描く辛亥革命の正史はこの写真パネルであり、そこに梅屋庄吉も田中角栄も入ってこないのだ。

主人公はあくまで中国共産党

 では、正史における辛亥革命とは何か。胡氏の演説によれば、それは清朝を倒し、数千年にわたる君主専制制度を終わらせた中国民主革命の「偉大な先駆」である。孫文は「偉大な愛国者」「革命の先駆者」と位置付けられ、共産党は孫文の革命事業の「最も忠実な継承者」であり、新民主主義革命に勝利して「中華人民共和国」を樹立した。

 あくまで主人公は革命の仕上げをした共産党である。辛亥革命の記念行事には、共産党政権の正統性と中台統一を宣伝するという二つの政治的な狙いがあるが、今回は先に述べたように台湾に関する部分が圧縮され、もっぱら共産党政権の正統性をアピール、孫文に学んで「中華民族の復興」に力を注ぐよう国民に訴えることに重点が置かれた。

 孫文は1924年11月、訪問先の神戸で「大アジア主義」と題した講演を行い、欧米の覇道と東洋の王道を対比し、日本が覇道を捨てて王道にかえるよう訴えた。しかし、日本は聞かず、満州事変、盧溝橋事変と対中侵略を本格化させた。

 現在、中国は米国に次ぐ世界第2の経済大国となった。中国の軍備増強や海洋プレゼンスの増大によって、周辺諸国の「中国脅威論」が強まる。中国は戦前の日本と同じ覇道の過ちを犯してはならない。胡演説が中国の発展原則の一つとして特に「平和と発展、協力」を挙げたのは、脅威論への釈明だが、ぜひ言行一致を望みたい。

 中国の内政を見ても、経済の成長スピードを追求するあまり、貧富の差の拡大や官僚腐敗、不動産バブルや環境破壊などの社会矛盾が拡大。孫文は民族、民権、民生の三民主義を提唱したが、今の共産党政権では民族主義だけが突出して強調され、国民の自由や権利を保障する民権主義、国民の生活を守る民生主義は十分に実現できていない。共産党政権は孫文の政治理念に学ぶべきではないか。
 


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