2022年12月10日(土)

復活のキーワード

2011年11月17日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 ある意味これは当然と言える。高度成長の結果、日本は債権国となり、基本的にカネ余り状態となったからだ。本来はそのカネ余りを商売にする「債権国型金融モデル」への転換が必要だったのだ。スイスの金融は、早くから債権国型のモデルへと転換した。融資業務はごく小さくなり、資産運用が事業の中心になった。スイスのプライベートバンクの中には、融資業務を一切止めてしまったところもある。

 この2つの金融業のモデルはまったく違う業態と言ってもいい。債務国型金融モデルでは集めた預金は元本保証のため、株式などで運用したリスクは銀行が被ることになる。一方、債権国型金融モデルである資産運用ビジネスでは、投資リスクは基本的に顧客が負う。日本でも投資信託などを想像すれば分かるだろう。こう考えると、バブルの崩壊で、銀行自体がリスクをとっていた日本の金融機関が巨額の不良債権を抱えたのは、ビジネスモデルから当然のことだったとも言えるのだ。

通貨高は海外から資金を集めるチャンス

 通貨高を生かせる金融業とは何か。将来にわたって通貨が強くなると思えば、その国には海外からの投資資金が集まってくる。通貨高は海外から資金を集めるチャンスなのだ。長年、スイスが金融王国として成長してきたのは、税制上の有利さなどもあるが、基本的には強い通貨が信頼の背景にあった。スイスフラン高の中でスイスの金融業が復活しつつある背景もそこにある。

 この10年、日本にも資産運用力を磨いた金融産業が育っていたならば、成長著しいアジアの富裕層の資金が日本に集まっていたはずだ。ヒト・モノ・カネが集まれば経済は自ずから成長する。だが、残念ながらこれまでの日本は、金融産業を育てようという国家ビジョンを持たずにきた。小泉純一郎首相時代には「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズが掲げられたが、貯蓄を担う銀行から投資を担う資産運用業への業態転換は進まなかった。

 民主党政権は、金融業には無関心に見える。政権交代以降、金融担当大臣のポストは国民新党が占め続け、金融行政は同党に丸投げ状態なのもそれを示している。郵便貯金は広く国民から小口の資金を集めるために作られた仕組みで、それを闇雲に温存するのは債務国型金融モデルへのノスタルジーでしかない。

 政権交代後の09年末に当時の菅直人副総理が中心となってまとめた新成長戦略でも「金融」が抜け落ちていた。その点を聞かれた菅氏は「世界経済を混乱させた元凶だとも言える」と語り、金融業を“白眼視”する姿勢を見せた。10年7月になって、ようやく新成長戦略に「金融」を加えたが、具体策に新味のあるものはなく、アジア諸国などから資金を集める金融ハブになるという発想もまったくないままだ。

 今、スイスでは資産運用会社の新設などが増えているという。通貨高を背景に、スイス国外からスイスに流入する資金が再び増加していることも背景にある。リーマンショックなどで顧客に大きな損失を被らせた金融機関が多くある一方で、金融派生商品(デリバティブ)などに投資するのではなく、世界各地に分散投資する伝統的なスイスのプライベート・バンキングの金融モデルが見直されているという。

 日本の家計が持つ金融資産の総額は1500兆円近い。この金融資産からいかに運用の果実を引き出せるかが、債権国である日本にとって重要であることは論をまたない。スイスの智恵に学ぶべきことは少なくない。

◆WEDGE2011年11月号より


 




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