「発情期になると毎日ホルモンをチェックし、行動を観察してピークの2~3日を探ります。その期間しかオスを受けつけないので、ピーク直前の行動を見逃さないように見守ります。一度、良浜の発情が遅れたことがあったんですが、その時にはスタッフより先に永明が反応したので対応できました。永明は本当に優秀な父親なんです。それに良浜ともその母の梅梅(めいめい)とも相性がいい」
メスに嫌われたら交配はうまくいかないので、永明はメスに好かれるオスということになるのだろう。
「良浜のほうが積極的な性格で、食べ物を与える時も待ちきれずに柵の間から手が出ることもありますが、永明はじっと待って手を出すことはありません。穏やかでやさしい性格なので、魅力があるのかも」
永明は1992年に生まれ2歳で白浜に来て、梅梅との間にオス5頭、メス1頭の6頭、そして良浜との間にオス2頭、メス7頭の子をもうけている。良浜は、中国で妊娠した梅梅が日本に来て産んだ子で、永明との血縁関係はない。永明の15頭の子は、双子が5組。ジャイアントパンダは約50パーセントの確率で双子を産むが、育てるのは強くて成長しそうな1頭のみ。母が育てない1頭は野生では生きられないが、飼育施設では人の手で育てられる。が、白浜では人がサポートすることで、良浜に双子を2頭とも育てさせることに成功している。
「最初は、定期的に赤ちゃんを入れ替えて母乳と人工乳を飲ませて育てます。好物のハチミツを与えて夢中でなめている間に入れ替えます。もしかしたら良浜は入れ替わってるのに気づいていなかったかも。ある程度安定してから2頭一緒に返すんですが、その時、あれっ? 2頭いたの? って感じで驚いてましたから。でも良浜は大らかな性格なので、そこから2頭の子育てをしてくれます」
愛らしさに魅せられて
遠藤は入社10年目。最初の1年はリスザルやウサギなどの小動物を担当し、2年目からパンダ飼育チームに配属されて9年目になる。
「入社試験では『パンダが好きでここを希望しました』と言いました」
神奈川県出身の遠藤を紀伊半島の白浜へまっしぐらに向かわせたのは、パンダの飼育員になりたいという子供の頃からの夢だった。
初めてパンダを見たのは7歳の時。両親と行った上野動物園でトントン(童童)と出会った。トントンはフェイフェイ(飛飛)とホアンホアン(歓歓)の子で1986年生まれ。日本で初めて育ったジャイアントパンダの子で、上野動物園に多くの人が押し寄せた。