Washington Files

2019年5月28日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

北朝鮮核問題

 「北朝鮮の核の脅威は取り除かれた」―トランプ大統領は昨年6月、シンガポールでの金正恩氏との史上初の首脳会談終了後、その成果を高らかに歌い上げた。そして、北朝鮮の非核化プロセスを加速させるため、今年2月、ベトナム・ハノイでの第2回首脳会談に臨んだ。

 ところが、米側がいきなり核施設、科学・生物兵器およびミサイル関連施設の完全廃棄を求める一方、北朝鮮側が期待していた対北朝鮮経済制裁の大幅緩和については何ら回答しなかったため、結局双方の主張の大きな隔たりを露呈したまま、何らの合意文書も発表することなく、会談は物別れに終わった。

 トランプ大統領がそもそも、第1回首脳会談終了後、「北朝鮮の完全な非核化」を成果として誇示した背景には、北朝鮮側の真の意図を読み違えたことが多分にある。北側の主張する「完全な非核化」は最終目標であり、そのためには朝鮮戦争「終結宣言」、在韓米軍の撤退、北朝鮮の体制保証が大前提であることはいうまでもない。これらの条件が満たされるまでは、当面の措置として、これまで核開発の重要拠点のひとつだった寧辺核施設の廃棄を提示することで、米側から経済制裁面での譲歩を引き出すねらいだった。

 しかし、トランプ大統領は第2回会談で成果を急ぐあまり、寧辺以外のすべての核施設の申告と査察、さらに現存する核弾頭引き渡しまで要求、この時点で、北朝鮮側が態度を硬化させ、会談は行き詰ったまま、予定より早く終了した。

 その後、トランプ大統領は第3回会談開催についてもいぜん意欲を見せているものの、開催時期、場所などをめぐる双方の協議は何の進展も見られない。

 最大のネックは、トランプ大統領が当初から、金正恩氏とのトップ会談で、早期に国交正常化し北朝鮮に対する将来の大規模経済援助、開発支援の用意といった明るい未来展望を示すことで「完全非核化」の約束をとりつけるという「ビッグ・ディール」をもくろんでいた点にある。

 ところが、金正恩体制は実際は、金日成時代からあらゆる困難を乗り越え開発にまでこぎつけた国家存亡のカギを握る核兵器を放棄する用意がまだできていないことが、しだいに明らかになって来た。

 それでも、一方のトランプ氏が性急な「完全廃棄」にこだわる以上、今後、双方が歩み寄る余地はあまりなく、このまま当分こう着状態が続く可能性は大きい。

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