2024年11月25日(月)

Washington Files

2019年5月28日

対イラン関係

 トランプ政権が対中国以上に強圧的態度に出ているのが、イランとの関係だ。

 米政府は2018年5月、「イラン核合意」から一方的に離脱発表以来、対イラン自動車関連取引禁止(同年8月)、原油取引制裁(同年11月)、金属取引追加制裁(今年5月)とあいついで経済制裁措置を打ち出す一方、今月半ばには中東地域に空母打撃群と爆撃機部隊を派遣したほか、迎撃ミサイル「パトリオット」と揚陸艦「アーリントン」を展開させるなど、軍事面でも威圧的態度をちらつかせ、イランに対し、核合意のやり直し交渉に応じるよう求めている。

 トランプ氏がこのような強硬策にこだわるのは、これまで徹底した経済制裁により核開発を進めてきた北朝鮮の態度を軟化させ、金正恩指導者との歴史的米朝首脳会談に引きずり込んだ“成功体験”が念頭にあるからだ。

 しかし、イランはこれまでのところ、米側の一方的な強硬策に妥協する姿勢を少しも見せていない。

 その理由として、今月12日付の「The Atlantic」電子版は「国際危機グループ・イラン・プロジェクト」部長のアリ・バエス氏の話として、とくに以下の3点を挙げている。

  1. イランにとっては(アメリカの制裁による)経済的困窮に耐え抜くこと自体が「勝利」であり、指導部が今の時点で白旗を挙げ、イスラム共和国体制転覆につながるような結果を受け入れる余地はない
  2. 過去にも外部圧力により存亡の危機に直面したが、目先の妥協よりも「戦略的収穫」が優先された
  3. イランは核開発問題では、2012年にオバマ政権との間で「合意」に向けた秘密交渉に入る前に数多くの遠心分離装置、大量の濃縮ウラン施設の隔離、重水炉施設の完成など、取引のための十分な実績を積んだ経緯があるだけに、今回も粘り腰による何らかの“収穫”がないかぎり米側の強圧的要求に容易に応じるとは考えにくい

 こうした指摘を裏付けるかのように、イラン政府は20日、米国の核合意離脱への対抗措置として、低濃縮ウランの生産量を今後、これまでの4倍に引き上げると表明した。そして、核合意を支持してきた欧州諸国に対しては、イランが引き続き核合意を順守し続ける条件として、対イラン経済制裁緩和に応じるよう強く求めた。

 このようなイランの対決姿勢に対し、トランプ大統領は同日、「米国に何かをすることになれば、イランは大きな過ちを犯すことになる」として、イラン側の挑発的行為に軍事的対応も辞さない構えを示した。

 しかし、双方で事態をこのままエスカレートさせ、軍事衝突にまで発展した場合、西側同盟諸国の足並みが揃っていないのも、アメリカにとっては頭の痛い問題だ。

 ポンペオ国務長官は今月13日、対イラン国際包囲網形成のため、ブリュッセルで英独仏の外相らと会談したが、このまま情勢が悪化の一途をたどり偶発的戦争に発展することを懸念する欧州側の主張との大きな溝は埋まらないままに終わった。

 さらに「イラン核合意」参加当事国である中国およびロシアも、イラン支持の姿勢を変えていない。

 中国外務省スポークスマンは、米国、イラン双方の自制を呼びかける一方、「事態をエスカレートさせている責任は米側にある」として、イランがアメリカによる離脱後もいぜんとして核合意を順守し続けていることに好意的反応を示した。

 ロシアのラブロフ外相もイランのザリフ外相との会談後、「アメリカの無責任きわまる態度(合意離脱)により、わが国が容認できざる状況を作り出した」と米側を批判した。

 こうした中で、イランとは伝統的な友好関係にある日本が、米政府との間の仲介に乗り出す。安倍首相は27日行われた日米首脳会談で、自らが6月中旬にイランを訪問、ロハニ大統領と会談する意向を表明した。これに対しトランプ大統領も「早く訪問してほしい」と好意的反応を示したという。これも裏を返せば、今のトランプ政権が今後の対応にいかに苦慮しているかを物語っているといえよう。

 米議会でも民主党議員を中心に、トランプ政権のイランに対する最近の「好戦的態度」に批判が高まっており、さらに財界や国民の間でも世界的な大混乱につながりかねない対イラン戦争を歓迎する空気は少ないだけに、ホワイトハウスとしても、大統領がこれまで豪語してきた「ビッグ・ディール」のレトリックをいかに行動に移せるか、局面打開の展望はいぜん開けない状況が続いている。


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