2024年4月20日(土)

前向きに読み解く経済の裏側

2019年6月3日

 会社員は辛いことも多いが組織人としてのメリットも受けている、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

(metamorworks/gettyimages)

会社員は辛いことも多い

 新入社員が会社に慣れ、組織の不条理に憤りはじめる季節となりました。学生時代は「嫌なことはやらない自由、嫌な人とは付き合わない自由」があったのに、会社では上司や客に無理難題を言われても逆らえないばかりか、笑顔で対応しなければならないのですから、当然ですね。

 誰かが失敗をしたら、皆でその尻拭いをしなければなりませんし、仕事の遅い同僚がいたら、その分の仕事を手伝わないといけない場合も多いでしょう。これも、会社組織の不条理な点だと感じる人もいるでしょう。

 ただ、それについては自分が失敗した時も同僚が尻拭いをしてくれるわけですし、仕事が早い同僚が自分の分の仕事を引き受けてくれる場合もありますから、「お互い様だ」ということですね。

 その意味では、会社は互助組織のような物かもしれません。個人事業主であれば、失敗すれば倒産するかもしれませんし、仕事が遅いならば食べて行くだけ稼ぐのは大変かもしれませんが、会社なら互いに支えあって食べるに困らない給料を払ってもらえるわけですから。

メシが食えるという安心感は重要

 フリーランスは、ミスをしたり仕事が遅かったりするとメシが食えませんが、そうでなくても仕事が来なかったらメシが食えません。景気の波もあれば人気が出たり出なかったりといった運不運もあるでしょう。つまり、メシが食えないリスクが結構高いわけです。

 それに対し、会社員は、とりあえずメシは食えます。勤務先が倒産したりリストラされたりする可能性は皆無ではありませんが、フリーランスと比べた安心感は圧倒的なものがあります。

 大きな組織になればなるほど、「規模の利益」が享受できますし、「大数の法則」が働くこともありますから、倒産する可能性は低くなり、互助組織としての機能が発揮されることでしょう。組織が大きくなるにつれて不条理なことも増えていくと思いますが(笑)。

組織の看板の威力は絶大

 筆者は、大学を卒業して銀行に入りました。その新入行員の頃、先輩に言われました。「お前の給料の半分は、ヤケ酒を飲むためのものだ。上司や御客様に無理難題を言われても、組織の不条理を感じても、笑顔で対応することへの我慢料なんだ」とのことでした。

 「組織の力はすごい。お前が一人で預金を集めても、集まらないが、銀行員の名刺を持っていけば集まる。それが組織の力だ。だから給料がもらえるんだ」「お前が一人で銀行員をやった場合の利益と、組織の不条理に耐えた場合の給料の差額は、組織の不条理に対して愚痴を言いながらヤケ酒を飲むための費用だ」との事でした。

 すごく納得したのを覚えています。でも、身を以てこれを実感したのは、銀行を退職して大学教授になった時です。銀行の若手だった時よりもエコノミストとしての経験を積んで、文書も上手くなっているはずなのに、原稿の依頼がほとんど来ないのです。自分がいかに銀行の名刺で仕事をしていたか、痛感させられました。

 余談ですが、今の筆者は、ようやく少し原稿の依頼をいただけるようになりました。有難いことです。これも、銀行員時代ほどではありませんが、組織のおかげが大きいと思っています。大学教授という肩書きや、大学のサポートがなければ、今よりずっと依頼が少ないでしょうから。

組織には分業のメリットも

 自分一人で仕事をすると、顧客を廻って注文をとり、材料を仕入れて物を作って客に渡し、代金を受け取るのみならず、銀行との取引や税金の計算まで自分でやらなくてはなりません。

 一つの仕事が終わるたびに頭を切り替えて次の仕事に移るのは、大変なことですし、個々の仕事に習熟することも容易ではないでしょう。規模のメリットも受けられません。

 会社組織になれば、経理の仕事だけに集中して従事する人、営業の仕事だけに集中して従事する人、等といった分業が出来ますから、頭を切り替える必要もありませんし、各自が仕事に習熟することが容易です。

 加えて、大勢の顧客を担当するのであれば、自動車を購入して「今日はA地区の顧客を集中的に訪問する」といったことも可能です。一人でやっていた時は自動車を買うほどの外出頻度でもないのでバスや電車で顧客周りをしていたのが、格段に効率的に営業活動が行えるようになったわけです。

 個々人の得意不得意も考慮できます。「伝票処理は得意でも、人と会って話をするのが苦手だ」という人は営業の仕事をせずに経理部で働けば良いですし、手先の器用さはないけれども口先は器用だ、という人は製造ラインではなく営業をすれば良いのです。

 そうして、各自が得意とする仕事をして、会社全体として価値を生み出し、それを分配すれば良いのです。


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