1−3月期の経済成長率はプラスでしたが、それでも消費税は上げるべきではない、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。
筆者は、積極財政論者ですが、MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)ほど能天気ではありません。財政赤字は小さい方が良いに決まっていますから。ただ、性急な緊縮財政で景気を腰折れさせてしまうリスクもあるので、それと財政赤字を続けるリスクとを比較しながら政策を決定すべきだ、と考えています。
本稿ではそうした立場から、今秋に予定されている消費税率の引き上げについて延期論を主張したいと思います。
10年待てば「気楽に」増税できるから、それまで待とう
少子高齢化による労働力不足は、今後も深刻化していく事が確実です。あと10年も経てば、「景気が良いと超労働力不足、景気が悪くても少し労働力不足」という時代になるでしょう。
そうなれば、気楽に増税できるようになるはずです。今の増税に反対論が強いのは、「政治家の人気取り」もありますが、「増税で景気が悪化すると失業が増えてしまうから」でもあります。そのうちの後者が10年経つと消えるのです。
もしかすると、恒常的な労働力不足により賃金が上がり、それが価格に転嫁されてインフレになるかもしれません。そうなると、増税が「景気を冷やしてインフレを抑え込む」と同時に財政も再建する、という一石二鳥の政策になるかもしれないのです。
それならば、何も今の時点で失業が増えてしまうリスクを冒す必要はありません。10年待ってから、ゆっくり増税すべきです。
10年待てなくても、せめて1年待って景気の先行きを見極めよう
10年も待てない、という人は多いでしょうが、その場合でも、せめて1年は待って様子を見るべき局面だ、と筆者は考えています。増税を強行する場合のリスクは以下の三つですが、1年待った場合のリスクは現在既に1103兆円ある国(日本国という意味ではなく、地方公共団体との対比で中央政府を国と呼んでいるもの)の借金残高が数兆円拡大するだけですから。
第一に、中国経済の先行き不透明感が増しています。痛みを覚悟して過剰債務問題への取り組みを始めたタイミングで米中冷戦が始まってしまったため、ダブルパンチによる大きな打撃が懸念されます。
「米国が中国から買っていたものは他の途上国から買うはずだから、他の途上国の景気が良くなり、世界経済は減速しない」というのが理屈ではありますが、タイミングのズレや投資マインドの冷え込みなどは懸念されますから、1年程度は様子を見た方が良いでしょう。
第二に、米国等で相対的にリスクが高い企業などに対する与信が増加しています。米国の景気は底堅いと思いますが、金融市場という所では「皆が不安に思うと一気に資金の引き揚げが始まりかねない」ので、高リスクな与信の急激な引き揚げには要注意なのです。
長短金利が接近していることは、金融市場参加者の景気先行き懸念を示唆しているわけですから、いつかの時点で投資家たちが景気悪化を本気で心配しはじめたら、高リスクな与信が一気に引き揚げられるかもしれません。
そうならないことを見極めるために、最低1年は今後の推移をじっくり観察し、それから増税を断行すべきか否かを判断しても遅くはないと思います。
第三に、日本国内の景気の先行き不透明感です。現在すでに景気が後退を始めているという見方も徐々に広がりつつありますし、東京オリンピックに向けて進められてきたインフラ投資等々がピークを過ぎて来ることも予想されます。
景気が後退しつつある時に消費税率を引き上げると、駆け込み需要の反動減と景気後退が相乗効果で事態を悪化させかねません。消費税率の引き上げは、景気の足腰が強くて多少のショックがあっても景気が腰折れしないと思われるタイミングで行うべきなのです。