2024年5月8日(水)

<短期連載>ペット業界の舞台裏

2011年12月28日

 獣医師の「慣習」として勤務医の給料は何年目にはこの位との相場があり、3年以上勤務させるのは普通の方法では難しいとのことでした。研修医を受け入れるには収益性を上げなければならず、検査や投薬を多くしたり食事やサプリメントを勧めたりと客単価を高くするための診察を行うようになってきたという傾向があるようです。

小さな動物病院 診察料高騰の理由

 身近な例ですが、ご夫婦で開業していた小さな病院がありました。診察や説明も丁寧で、多少の知識を持つ私にとっても非常に魅力的な先生であり、料金も良心的で良い病院だと感じて利用していました。しかし、研修医を3名増員した時から少しずつ利用回数が減ってしまい、今ではもう利用していません。理由は検査や投薬が増えたこと、同じ先生に診てもらえず診断が曖昧になったこと、何よりも診察料が法外に高くなったことでした。

 飼い主仲間の使う病院でも同じような状況が起こり、研修医が誤診したためにかかった検査費用と、専門医の出張料までも支払わされました。研修医が聴診時にペットを抱え込んだままで行ったため、雑音から「先天性の心疾患」と診断してしまい、その検査のために行った超音波検査費用締めて6万円。結局疑いは晴れ、飼い主の前で検査した専門医が研修医を注意していたためわかったのですが、それでも謝罪はなく普通に請求されたあげく、心臓に良いという処方食まで勧められたとのことです。

 日進月歩する医療技術と顧客の要望で必要となる検査機器や医療機器の導入が、経営を圧迫する状況もあるようです。医学の進歩と顧客の要望に伴う経費として考えるべき内容でもありますが、事実を知るとお互いのメリットにはならないのではないかと考えます。

欧米ではかかりつけ獣医師と専門医を使い分ける

 三つ目は増えすぎた動物病院に関してです。

 前述のように、動物病院の開業数は増え、2011年度は前年よりも250~300院ほど増加しました。病院が増えると、同じ地域に複数隣接する状況も出てくるでしょう。同じ地域で同業他社が複数存在すると当然競合が起きてしまいます。飼い主さんは値段の安さや評判を聞いて病院を選びますが、本当に必要な時にその技術や情報を持った病院を選ぶのに苦労する事になってしまいます。

 欧米では獣医師専門医制度があり、かかりつけの獣医師と専門医がはっきりとライセンス分けされて共存しています(http://www.petwell.jp/feature/2011/11/021305/)。飼い主は通常の健康管理や食事・しつけのアドバイスはかかりつけ医で、それ以外は紹介された専門医に診てもらうのが通例になっています。そのため、医師それぞれが専門に合わせた設備投資をします。あれもこれもと全てを必要とはしないので、料金も専門性に見合った利用しやすい設定が可能となるそうです。日本の場合も制度としての専門医を検討していますが、現状はレジデンス制にするための専門医師が不足しているなど、学会など団体の認定医制度までしか実現されていないとのことでした。

 いま日本国内で開業している病院のほとんどが、このかかりつけ医の役割を担っています。しかし、最先端の教育を受けた医師が開業する場合、当然のことながら設備も最新のものが必要となってきます。動物病院コンサルタントの情報では、小さな医院でも開業に最低2000万は必要になっていて、その多くは検査や治療に必要な機器だそうです。獣医学部で最新の機器を使って学んできたため、逆に言えば、最新の機器で判断しなければ診察も治療も出来ないそうです。最近の病院では検査が多いのも頷けます。経費の分、診察料は割高になります。利用側からはこれを高いと感じているという意見が多く聞かれます。なぜ高いと感じてしまうのでしょう。そこに価値を感じないからなのではないでしょうか。病院の価値は何処にあるのでしょうか?


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