2024年11月23日(土)

<短期連載>ペット業界の舞台裏

2011年12月28日

魔法の言葉「生まれつき」

 以前、一緒に働く勤務獣医師に面白いものを見せて頂いたことがあります。

 とある大学発行の開業獣医師向けの接客マニュアルでした。「ここ面白いから」と渡されたページに、初診の患畜を診断する場合、「生まれつき」の言葉をつけること云々…との内容でした。たとえばお腹の具合が悪い場合、この子は「生まれつき」お腹が弱いと伝えることで、完治しても逆に最悪の結果が起こったとしても、病院側の責任は回避できるという理屈だそうです。言い回しは状況に応じて変えるにしても、なるほど納得な内容です。「顧客を囲い込み、利益を生むための魔法の言葉」だと教えて頂きました。

 10年以上前のお話ですので、現在この内容がどう変わっているのか確認は出来ていません。

 たとえば現在、このようなことを初めて行った病院で言われたら飼い主はどういった反応をするのでしょうか。先生を信じ切って利用を続ける方。意見を求めに他の病院へ行く方。購入先へ怒鳴りこむ方。もちろん商売ですので獣医師側に戦略や戦術も必要なのは理解できますが、飼い主がどういう反応でも、情報の多い現代の状況では双方のメリットはないように感じてしまいます。

治療費や医薬品の適正価格とは?

 利益を上げるために治療費を増やし、関連商材を勧める。保険会社に水増し請求をする所もあるそうです。人間の医療でも同じ問題がありました。結果、健康保険制度が破綻しそうになり制度の見直しが行われました。動物の場合 健康保険制度はありませんが、不正請求でペット保険会社のブラックリストに載っている動物病院も多くあります。

 動物は口がきけません、飼い主にとって専門知識と資格を持つ獣医師の言葉が全てとなってしまう場合もあるのです。また、その費用は飼い主の生活に直結しています。安くすることも必要かもしれませんが、納得して払える金額が適正なのではないでしょうか。もちろん病院の経営者側にも生活があります。私程度の知識では適正価格がどのくらいなのか、どうすれば価値を上げられるんだなどの判断はできません。今が適正であると言われればそれまでです。結果として通院回数が減り、治療も滞ってしまうのであればペットたちにとっても悲劇と言えるでしょう。インターネットを使って医薬品や療法食を購入する人が増えたのも、価格だけでの問題ではないと感じます。メリットがあれば病院での購入を検討するはずです。

 飼い主として、業界の人間として、獣医師に憧れる一個人として考え続けていかなくてはならない課題だと感じています。(第6回につづく)

 
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