2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年7月5日

 米国とイランの対立は、なかなか出口が見えない様相となっている。

(Andrei_F/GlobalP/iStock)

 6月13日、安倍総理がイランを訪問している最中に、オマーン湾で日本、ノルウェーのタンカーが何者かの攻撃を受けた。米国は、タンカーからイランの革命防衛隊が不発の機雷を回収している様子を映したとする映像を証拠として公開、対イラン批判を強めた。しかし、決め手に欠ける。革命防衛隊の正式な行動、革命防衛隊内の跳ね上がり、ホーシー派、米国とイランの対立を助長したい地域のテロ組織の仕業等が可能性として考えられるが、判然としない。

 6月20日には、米国の無人偵察機グローバルホークがイランにより撃墜された。米側は、オマーン湾からホルムズ海峡にかけての国際空域を飛行していたと主張しているが、イラン側は、イランの領空を侵犯した、と主張している。これに対し、トランプ大統領は「報復攻撃を承認したが米軍の犠牲の大きさを考え10分後に撤回した」という趣旨のツイートをした。トランプは、撃墜について、イラン側の誤射の可能性についても言及している。10分で撤回したというのは、文字通り受け取る必要はないように思われる。おそらく、トランプはイランに対して、自分は必ずしも最強硬派ではない、自分だけが交渉相手となり得る、とのメッセージを発したかったのではないか。

 軍事攻撃はひとまず回避されたが、制裁の強化によりイランへの圧力が強められた。6月24日、米財務省は追加経済制裁を発表、ハメネイ師、革命防衛隊の幹部8名を制裁対象に指定した。制裁対象は、米国における資産が凍結され、米企業との取引が禁じられることになる。また、制裁対象と取引をした者も制裁の対象となり得る。追加制裁に際して、トランプは、タンカー攻撃と無人偵察機撃墜にも言及し、ウラン濃縮とミサイル開発の停止が実現するまで圧力を続ける、と言っている。他方、対話の用意がある姿勢も示した。ハメネイは米国との取引を一貫して拒否し続けている。

 トランプ政権の今のやり方は、イランに最大限の圧力を加え、オバマ政権時代の核合意を再交渉するように仕向けるというものであるが、そういうことは不可能だろう。米国は昨年5月、イランと5+1の核合意(JCPOA)を一方的に破棄した。しかも、イランに対して最後通牒とも言うべき12か条の厳しい要求を突き付けている。そうしておきながら再交渉をイランに求めても、イランが応じる可能性はまずない。ハメネイが米国と新しい取り決めを結ぶこと、それに向けて交渉する気はないというのは当然のことである。トランプが、イランが米国の要求を屈服して受け入れると思っているのなら、夢を見ているとしか思えない。

 今のやり方を続けていくと、結局JCPOA全体が崩壊することになり、イランの核兵器開発は止められないか、止めるために戦争をするかしかなくなる。軍事的には米はイランより格段に強いが、戦争で戦争目的を確実に達成して勝利するのはそう簡単ではない。最も良い選択は、米国が対イラン外交を行うことである。外交であるから、イランの言い分も聞きながら、話し合うということであり、JCPOAの復活を含めた話し合いの用意を示さないと、どうしようもないだろう。

 米国とイランは現在のところ、双方とも戦争を望んではいない。しかし、危険なチキンゲームの様相を呈している。直ちに戦争が起こるとは考えられないが、偶発的事態や誤算から武力衝突に至るリスクは排除できないし、その可能性は高まり続けていると思われる。日本は欧州と協力して米国に方向転換を迫るべきであろう。ハメネイは米国との対話に否定的に対応しているが、それで米イラン対話の慫慂路線を諦めることはないと思われる。

  
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