サウジの国営石油会社サウジ・アラムコが、インド大手財閥リライアンス・インダストリーズ(RIL)の石油関連事業への出資を検討している、と4月に報じられるなど、サウジとインドの経済関係が緊密化する兆しを見せている。報道によれば、サウジ・アラムコは、RILの石油関連事業に最大25%出資するとのことであり、早ければ6月にも合意する可能性があるという。
元来、サウジはインドの「仇敵」とも言うべきパキスタンとの関係が密接であった。最近も、サウジはパキスタンのグダワル港に100億ドルの製油所の建設を約束した。パキスタンの核開発をサウジが資金援助したことは良く知られている。パキスタンはサウジに軍事顧問を送っている。日本では一般的に、パキスタンをアジア、サウジを中東に分類しているが、両国は地理的に近接している。
しかし、経済的にはインドはパキスタンの数倍で、サウジにとっての経済的利益はインドの方がはるかに大きい。インドから見ると、インド人はサウジで働く外国人労働者の中で最大で、毎年本国に110億ドル送金している。インドにはイスラム教徒が2億人いるが、これは世界で三番目である。サウジがインドとの経済関係を進めようとするのは当然である。当面、サウジ・アラムコが先兵の役割を果たしそうである。
他方、サウジのインドとの経済関係の強化は、サウジとパキスタンの伝統的な関係に影響を与えないだろう。サウジは、もしイランが核武装すればサウジもすると言っている。米国のイラン核合意離脱をきっかけに、イランが核開発を再開する可能性が浮上してきた。イランが近いうちに核武装をすることは考えられないが、サウジはイランの動向に細心の注意を払っていくだろう。
もし仮にサウジが自身の核開発を真剣に考える場合には、サウジには核関連の施設もなければ研究者もいないので、パキスタンに頼らざるを得ない。パキスタンは、「イスラムの核」の旗印の下、サウジの資金援助により自身の核開発が可能となった経緯があるので、サウジを支援するだろう。しかし、仮にそうなっても、それがサウジとインドとの経済関係に影響を与えることは考えられない。サウジは日本はじめほとんどの国同様、印パ両国との経済関係の推進を図るだろう。
サウジとインドとの経済関係は放っておいても強まっただろうが、米国のイラン核合意離脱に伴う対イラン制裁の強化が、これを後押しする結果となっている。インドはこれまでイランと親密な関係にあり、イラン南部のチャバハール港を開発するなどしている。ところが、米国からの圧力でインドはイランから距離を置くようになり、原油の輸入先と投資の導入先を変える必要が生じた。これはサウジにとって思わぬチャンスであり、このチャンスを生かしてインドに対する原油の輸出を増加させるとともに、インドのインフラに対する投資を進めようとするだろう。
インドの経済力とその発展の可能性を考えれば、サウジとインドとの経済関係は今後一層強化されることになるだろう。それは両国にとっての利益であり、日本にとっても歓迎すべきことである。
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