2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月3日

 IMFは5月12日、パキスタンに対し、拡大信用供与と呼ぶ60億ドルの財政支援を実施すると発表した。

(oxinoxi/Ales_Utovko/Jacek_Sopotnicki/iStock)

 パキスタンがIMFの支援を仰がざるを得なくなったのは、貿易収支赤字や対外債務が増大し、外貨準備が極端に減少、対外支払いが滞る危機に見舞われたからである。貿易収支については、昨年輸出が約250億ドル、輸入が約600億ドルで、約350億ドルの赤字を記録したと報じられている。対外債務は2016年3月で739億ドルであったものが、本年3月には1058億ドルに急増したとされる。外貨準備は5月3日の時点で89億ドルと、輸入の2か月分にも足りない額であったと報じられている。

 パキスタンの対外支払い危機は、1980年以降、過去に12回もIMFの支援を受けていることが示すように、何も最近始まったものではない。パキスタン経済が構造的問題を抱えていることは明らかである。補助金への依存体質、国営企業の慢性的な経営難、投資不足、民間企業の低調などである。これらは、財政赤字の原因である。パキスタンがIMFの支援を必要としているのはさ、外貨準備の不足だけでなく財政赤字も大きな要因である。IMFから構造改革を求められることになるだろう。パキスタンは今回のIMF支援受け入れをきっかけに、経済運営の大幅見直しをすることが望まれる。

 しかし、最近は新しい要素が加わった。パキスタンの対中経済依存である。とりわけ、一帯一路の一環である「中パ経済回廊」の建設が大きい。回廊の建設総額は約600億ドル、パキスタンのGDPの5分の1に相当する巨額なものと言われる。建設に必要な電気設備や鉄鋼製品などの中国からの輸入が急増しているという。中パ間の関連する融資契約の多くは不公表であるが、回廊の建設がパキスタンの対外支払いの大きな負担になっていることは間違いない。

 このような事情を踏まえ、パキスタンのカーン首相は昨年11月に訪中し、習近平国家主席らに支援を要請、中国政府は約21億ドルの財政支援を約束した。パキスタンはこのほかにもサウジアラビア、UAEからの支援を取り付けている。IMFはパキスタン支援を決めるに際し、これらの二国間ベースの支援も考慮に入れたものと見られる。「中パ経済回廊」の建設を含め、中国に対する経済依存の見直しも迫られざるを得ないだろう。

 「中パ経済回廊」は、中印係争地帯を通過するなど、インドを強く刺激する内容である。もちろん、一帯一路全体が、中国の影響力拡大を狙った世界的規模の戦略的ツールである。パキスタンの対中依存度が低減し、「中パ経済回廊」に綻びが生じるようなことがあれば、地政学的な意味が小さくないと思われる。最近、中国は一帯一路関連を含む対外融資に、ある程度の規律と透明性を導入するよう努めているようにも見える。パキスタンの事例は、一帯一路の行方を占うものとして、引き続き注目していくべきであろう。

  
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