2月14日、カシミール地方のインド支配地域で、インドの治安部隊のバスを狙ったイスラム過激派による自爆テロがあり、少なくとも44人が死亡、同地域で過去20年間に起きたテロ事件で最悪の犠牲者数であるという。イスラム過激派組織「ジェイシモハメド」が犯行声明を出し、印パ両政府は互いに相手方を非難し合った。さらには、2月26日インド空軍の戦闘機が事実上の印パ国境である「管理ライン(LOC)」を越えたのみならず、明確なパキスタン領内まで侵入してテロリスト・キャンプを攻撃し、翌27日には逆にパキスタン軍がLOCを越えてインド側を攻撃し、エスカレーションの危機が一気に高まった。他方、パキスタンは戦闘に際して捕捉したインド軍パイロットを解放し、自制の姿勢も見せている。
今回の印パ関係緊張の背景には、2つの大きな要因がある。1つは「ジェイシモハメド」が活動を再活発化していることである。指導者マスード・アズハルの復活は大きい。マスード・アズハルは、2001年のインド議会の攻撃の首謀者と見られているが、その後姿を消した。それが2014年に再び姿を現し、それに呼応するかのように「ジェイシモハメド」が活動を再活発化した。また、アルカイダとISがカシミール地方でのテロ行為を活発化したので、「ジェイシモハメド」がカシミール地方におけるテロ活動の主導権を取り戻そうとして活動を再活発化しているということも考えられる。
もう一つの要因は、カシミールの不安定の力学が変わったことである。伝統的にパキスタンはカシミールでの反乱を扇動してきたが、最近、特にインドの治安部隊が2016年にカシミールの若い過激派指導者ブルハン・ワニを殺害して以降、カシミール在住者がインドの治安部隊に対し、長年の不満を爆発させるようになり、「ジェイシモハメド」がカシミール在住者の中から過激派要員を集めるようになった。
このカシミール地方におけるイスラム過激主義の高まりは軽視すべきではない。インドの著名なテレビ・ジャーナリスト、バーカ・ダットは、ワシントン・ポスト紙に2月14日付けで掲載された論説‘Everything will change after the Kashmir attack’で、「教育を受け、比較的裕福な若者が、銃のみならず、カシミールの『イスラム共同体』を信奉している。今回の自爆テロの実行犯はテロの現場の近くに住む22歳の青年で、武器と弾薬を身にまとい、『聖戦』への参加を呼びかける青年のビデオがソーシャルメディアで配布されている」などと指摘している。インド人の論説なので、多少割り引いて考える必要はあるかもしれないが、カシミール在住パキスタン人の若い世代の間で、攻撃的なイスラム主義の感情が広がっており、カシミール情勢の新しい、危険な要因となっているのは確かなようである。