12月20日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、ワシントン・ポスト紙など米国の複数のメディアは、トランプ政権がアフガンから数カ月以内に約7000人の米兵を撤退させる方針であると報じた。一部のメディアは、撤退は早ければこの1月にも始まる可能性があると報じた。これは関係者に驚きをもって受け止められた。明らかにアフガン駐留米軍についてのトランプの政策変更となるからである。
トランプは昨年8月21日、アフガンで「イラクでの失敗を繰り返すわけにはいかない」、撤退すればテロがはびこる「真空地帯」が生まれ、9.11直前と同じ状況になるとして、アフガンで状況が改善するまで関与を維持すると発表した。9月18日にはマティス国防長官(当時)がアフガンの米軍部隊を3000人以上増派すると述べ、その結果アフガンの米軍数約1万4000人となった。
アフガンの情勢は当時に比べて改善しているどころか、悪化している。タリバンの支配ないし影響力の及ぶ地域は拡大し、タリバンの攻撃によるアフガンの治安部隊の犠牲者は記録的な多さとなったと報告されている。昨年8月のトランプの情勢判断から言えば、とても米軍を縮小するような状況ではない。トランプの考えが変わったのである。
シリアからの撤兵と併せて考えると、トランプは戦略的影響如何に関わらず中東への軍事的関与を減らしたいと考えているようである。シリアからの米軍の撤退表明がマティスの辞任に繋がったことはよく知られているが、1月2日の閣議でトランプは、マティスのアフガン戦略についても「彼がやってきたことについて満足していない」と強く批判している。
アフガンの米軍の縮小は、2つの点で大きな影響を与える。1つはタリバンの封じ込めである。アフガンの治安部隊は能力を向上させているとはいえ、依然として米軍の支援を必要とする。米軍の規模が半減すれば、アフガンの治安部隊のタリバンに対する戦闘能力はさらに弱まるだろう。
第2はアフガンでの和平の動きへの影響である。アフガンでは以前より和平の動きが見られ、最近では12月の17、18日にUAEで、パキスタンの仲介により米国とタリバンの会談が行われている。米国の代表はハリルザード・アフガン問題特別代表であった。タリバンのスポークスマンは、主な議題はアフガンからの米国とNATO軍の撤退であった、と言っている。タリバンにとって最大の問題、和平への最大の障碍は米国とNATO軍の存在であり、米軍等の撤退を最優先事項と考えている。
今回のUAEにおける会談の問題は、アフガン政府の代表が参加していないことである。タリバンにしてみれば最優先事項は米軍などの撤退なので、米国と話せばよいということであろうが、アフガン政府の代表の参加なしにアフガンの和平の協議はありえない。アフガンの和平協議の道のりは遠いと言わなければならない。アフガンの和平協議の現状がそのようなものであるにせよ、米軍の規模が半減すれば、米国の和平協議への梃子はそれだけ減ることとなり、タリバンを力づけることとなるだろう。
今回のトランプの方針転換は、在アフガン米軍の半減であり、全面撤退ではない。したがってアフガンの治安維持、和平協議の推進は依然として米軍に頼ることとなる。ただ、その効果は、米軍が1万4000人であるのと、7000人であるのとでは大きく異なる。今回の決定のトランプの意図が何なのか、必ずしも明らかでないが、その結果は、アフガン情勢の混迷の継続、さらには状況の一層の悪化である可能性が高い。
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