2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月14日

 インドでは、4月11日から5月19日まで総選挙が行われる(投票日が約1か月の期間中7回設定されている)。インドは9億人の有権者を抱える世界最大の民主主義国であるだけに、総選挙も大規模なものである。5月23日に一斉開票される。一時は、モディへの支持率の低迷から、政権交代の可能性も言われたが、最大野党の国民会議派も冴えを欠き、選挙ではBJPの優位が伝えられており、BJPは、過半数は獲得できそうにないものの第一党を維持し、モディが再び首相になる可能性が高い。その場合、「第2次モディ政権」の課題としては、(1)経済改革、(2)インドにおける反イスラム感情の抑制、が指摘される。

(photomaru/AlexLMX/iStock)

 前回2014年の選挙では、モディ率いるBJP(インド人民党)が30年ぶりに単独過半数を獲得し、「メイク・イン・インディア」政策を掲げ、経済の活性化に取り組んだが、期待したほどの効果は上げていない。

 モディは目玉政策としてまず財サービス税を導入した。インドのこれまでの税は州ごとに異なり、商品のサプライチェーンを妨げ、非効率であったが、憲法を改正して全国一律の税率を導入し、経済活動の効率化をもたらそうとした。しかし、十分な準備ができていたとは思われず、運用面で多くの問題が生じているようである。ただ、今後運用面の問題をクリアすれば所期の効果を上げられるはずであり、財サービス税の導入の評価は、今少し時間をかけて行うべきである。もう一つの目玉政策は高額紙幣の廃止で、突然実施されたため一時大混乱が起き、景気の腰を折ったようである。しかも本来の目的のブラックマネーの撲滅は、旧紙幣の99%が銀行に戻り、目的は果たさなかったようである。

 モディの経済政策の真の課題は、この2つの目玉政策よりはインド経済の従来からの問題である構造改革である。しかし、モディはそれに取り組んでいないようである。土地改革、銀行制度改革、複雑で厳しい労働法規の緩和といった問題は、これまでインド経済発展の足かせとなってきており、インド経済の近代化のために避けて通れない問題である。これらが容易に解決できない問題であることは間違いないが、モディが「メイク・イン・インディア」のスローガンを掲げてインド経済を活性化しようとすれば、本気で取り組まなければならない問題である。「第2次モディ政権」の最大の課題と言っていいだろう。

 選挙中、BJPのヒンドゥ至上主義、インドにおける反イスラムの言動が高まっていることにつき、西側ではこうしたことに憂慮を示す論調が多く見られる。例えば、4月11日付けフィナンシャル・タイムズ紙社説‘India deserves economic reform, not sectarianism’は「モディは経済改革の公約を実施する代わりに、ナショナリズムに訴えた。モディ自身は反イスラムを掲げることは注意深く避けたが、BJPはそうではなかった。モディの側近のヨギ・アディティアナは扇動的なヒンズー教徒で、支持者たちに、イスラム教徒が暴動を起こす、ヒンズー教徒一人が殺されたらイスラム教徒100人を殺せ、と述べた」と厳しく非難している。確かに反イスラム感情のコントロールは重要である。ただ、ヒンズー教徒の国インドで、選挙時に反イスラム感情が高まるのは予測されるところであり、少し楽観的過ぎるかもしれないが、選挙から時間が経てばある程度鎮静化していく可能性はあると思われる。

 前出フィナンシャル・タイムズ紙社説は、反イスラムの動きの一つとして、モディ政権によるパキスタンの越境攻撃を挙げているが、これはカシミールのインド領で起きたイスラム過激派のテロ攻撃に対する報復であり、インドとして当然の行動であった。カシミールにおける印パの対立を考えれば、今回は印パ両国が紛争の拡大を避けるため自制したことが評価されるべきである。

  
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