2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月17日

 第2回「一帯一路フォーラム」が、2019年4月25日から27日の3日間、北京で開催された。約150か国の代表が出席し、そのうち、ロシアのプーチン大統領やイタリアのコンテ首相等首脳が参加した国は37か国に及んだ。前回第1回の「一帯一路フォーラム」は2017年の5月に開催されているが、その時に出席した首脳は29人、会期が2日間だったことを考えると、米国等西側の「借金漬け外交」(debt diplomacy)の批判にもかかわらず、「一帯一路」構想は拡大しているようである。

(grynold/traveler1116/alenaohneva/iStock)

 3日間のフォーラムを終えて、習近平国家主席は、成果を誇らしげに語った。国家間等で合計283の協定が結ばれ、企業等が参加した会議では、総額640憶ドル(約7兆1440億円)のプロジェクトが決定したという。

 各国首脳の他、国連のグテレス事務総長や国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事等、主要国際機関のトップも出席したことで、中国政府の高官は、国際社会のお墨付きを得たと自信を見せた。

 米国の政府高官や世界銀行のマルパス総裁(元米国財務次官)は欠席したが、東南アジア諸国連合(ASEAN)からはフィリピンのドゥテルテ大統領、マレーシアのマハティール首相、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問が出席した。マハティール首相は、首相就任後、中国が融資する東海岸鉄道プロジェクトを凍結する決断をしていたが、中国側が総工費の値下げを提案し、それに応じる形で、最近、プロジェクトを再開した。中国にとっては、「一帯一路」の重要なインフラ整備の一環であった鉄道プロジェクトを推進出来、ほっとしたことだろう。そして、東南アジアの東と西の海路につながるフィリピンとミャンマーのトップと会談することも、中国にとっては重要だった。特に、フィリピンとは南シナ海で領有権を争いながらも、人権問題で西側諸国がドゥテルテ大統領を批判している隙に、フィリピンを支援して仲良くなってしまおうとの思惑がある。ミャンマーに関しても同様である。ロヒンギャ問題等で西側メディアがミャンマー政府を非難すると、民主主義や人権を掲げる諸国では積極的支援をミャンマーにしにくくなる。その間にも、中国は援助の手を差し伸べているのである。

 「一帯一路」構想の実現に不可欠なのが、鉄道と港という大型プロジェクトである。中国は、着々と世界の鉄道と港をおさえつつある。上記に挙げたマレーシアの東海岸鉄道の他、アフリカのエチオピアとジブチを結ぶ鉄道建設プロジェクトもある。今回、エチオピアのアビー首相も「一帯一路」フォーラムに出席した。

 エチオピアと結ばれたアフリカの玄関口と言われるジブチの港も既に中国マネーによって「自由貿易地区」が設けられ、中国海軍も寄港する基地化が進んでいる。このような海路への進出は、既に世界各地で行われている。欧州では、ギリシアのピレウス港、そして3月末に習近平主席が訪問したイタリアで合意を交わしたジェノバ港とトリエステ港、アジアでは、パキスタンンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港がある。スリランカは、4月21日の復活祭の日に、大規模な同時多発テロが発生し200人以上が犠牲になった国であるが、このハンバントタ港は、中国からの高利融資でまさに「借金漬け」で首が回らなくなり、中国国有企業に99年間貸与することになってしまった所である。

 海の航路をその対象の1つに見据える「一帯一路」構想のフォーラムの直前の4月23日、中国は海軍創設70周年記念の国際観艦式を青島で開催した。日本からは海上自衛隊の護衛艦「すずつき」が参加したが、米国海軍は参加を見合わせた。

 中国が「一帯一路」構想で着実にその地平を拡大させている一方、米国や日本、英国、フランス、豪州、インド等は「自由で開かれたインド太平洋」構想を実現しようとする。南シナ海や東シナ海、またはアフリカ等で、今後、新たな覇権争いが起きる可能性が否定できない。が、もはや陸や海路に留まらない。既に、米国や欧州のGPSに対抗して中国が打ち上げている「北斗」は、宇宙を通じた世界の覇権を狙っている。皮肉にも、その大きなセンターが、中国援助で、中東アフリカで最初に「アラブの春」、ジャスミン革命を起こして民主化したチュニジアに建てられた。この春4月1-2日、チュニジアの首都チュニスでは、第2回中国・アラブ北斗協力フォーラムが開かれた。
 

  
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