2024年3月4日(月)

Wedge REPORT

2019年7月12日

北大卒からホームレスになったわけ

 「年金」とは同郷ということがわかり、話が弾むことが多かった。彼は北海道の造林業者だった。造林とはあまり聞かない言葉なので彼に説明してもらうと、造林は土地を買って木を植え、それを販売することだという。

 「バブルのときに造林に手を出して入札で2億円の山を買ったんだよ。でも木材が育つのは何10年と時間がかかるし、値段的に輸入材に勝てない。バブルが崩壊して土地の値段は下がるし、結局借金の金利が払えなくなった」

 目論見が甘かったのである。銀行にも金を借りてくれとけしかけられたに違いない。

 「ブルやダンプやユンボを全部売っぱらっても、借金返済には足りなくて、保証人には悪いことをした」

 造林会社の社長だったわけだ。でもホームレスのいうことは眉つばも多い。そんな私の疑いの表情に気がついたのか、年金は別のホームレスにあずけてある1.5メートル長のセルロイド製の衣装ケースをわざわざ持って来させ、さっそくケースを開け、「これ、これ」といってその中の小箱を開けた。年金証書ほか重要な書類が入っている。

 年金はまず、北海道大学の卒業名簿を見せ、次に植林関係の認定業者の目録をとって自分のかっての企業を「これがそうだよ」と指差し、次に筒に入った、賞状をうやうやしく披露した。賞状には農林大臣の文字がある。年金は誇らしげである。日付はそう遠い昔ではない。

 「全国で10社ぐらいだよ。選ばれたのは。女房といっしょに上京して大臣に会って金杯までもらったんだ」

 人は頂点から一気に転げ落ちる。


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