オトナの教養 週末の一冊

2019年7月26日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

遺伝子工学と人工知能が
人類の未来におよぼす影響

『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』(スティーヴン・ホーキング 著、 青木薫 翻訳、NHK出版)

 とりわけ、遺伝子工学と人工知能が人類の未来におよぼす影響については、共感するところが多かった。感情に流されることなく、悲観も楽観もせず、原理的な考察にもとづいて未来を予測し、実現可能なアクションを起こそうとする姿勢は、さすがというほかはない。

 <……次の千年間には、DNAをまったく新しくデザインできるようになる可能性が高そうだ。もちろん、多くの人は、人間への遺伝子工学の応用は禁止すべきだと主張するだろう。しかしそう主張する人たちは、はたしてそれを阻止できるのだろうか? 植物と動物に対する遺伝子工学は、経済的な理由により許されるだろうから、いずれは人間に応用する者が出てくるにちがいない。>

 <改良人間の開発が、改良されていない人間に関して、大きな社会的、政治的問題を生じさせるのは明らかだ。私は人間に遺伝子工学を応用することを、良いことだからやるべきだと言っているのではない。ただ単に、望むと望まないとにかかわらず、次の千年間に行われる確率が高いと言っているのだ。>

 <どんどん複雑になる周囲の世界に対処しながら、宇宙旅行のような新しいことにも挑むためには、人類はなんらかの意味で心と身体の両方を改良しなければならない。そして、もしも生物学的なシステムが電子的なシステムの先を行きつづけるようにしようとするなら、人類の複雑さを増大させる必要もある。>

 <コンピュータが真の知性――それがなんであれ――を持つことはないだろうと言う人たちもいる。しかし私は、非常に複雑な化学物質の働きが人類を知的にしているのなら、それと同じぐらい複雑な電子回路がコンピュータに知的なふるまいをさせることは可能だと思う。そして、もしもコンピュータが知性を持てば、おそらくは自分自身よりもはるかに複雑で高い知性を持つコンピュータをデザインできるようになるだろう。>

 ホーキングが予測するのは、「生物学的なものと電子的なものの両面で、複雑さが急速に増大する未来」だ。

 <私たちの宇宙の境界条件には、何かとても特別なことがあるにちがいないが、境界がない(ノーバウンダリー)ということ以上に特別なことがあるだろうか? そして人間の真摯な努力に限界はない(ノーバウンダリー)はずだ。私の考えでは、人類の未来のためにできることはふたつある。ひとつは、人類が生きていくのに適した惑星を求めて宇宙を探査すること。そしてもうひとつは、地球をより良いものにするために人工知能を建設的に利用することだ。>

 物理学への関心の度合いにかかわらず、ビッグ・クエスチョンに挑むときにホーキングが大切にした原理をうかがい知ることは、読者一人ひとりのこれからの人生に何らかの光を投げかけるにちがいない。

  
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