2022年9月28日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年2月18日

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 そもそも漢字文化を共有しない少数民族にとって、「中国」という文字が発する価値自体が不明である以上、「漢字文明の偉大さや先進性」なるものとともに立ち現れ自らを圧迫する「中国」に従う理由などない。モンゴルやチベットが清に従っていたのは、満洲人皇帝が草原世界共通の信仰であるチベット仏教のパトロンであったからであり、東トルキスタンのトルコ系ムスリムが清の領域に組み込まれたのは、この地を支配していたモンゴル系の王国ジュンガルが清に滅ぼされ、満洲人皇帝はイスラーム信仰を認めたからである。だからこそ辛亥革命による清の崩壊以後モンゴルは独立に走り、チベットや東トルキスタンも独立しようとして失敗したのである。辛亥革命が近現代中国の一大慶事であるなどという議論は、清から受け継いだ領域の安定的維持という立場からすれば著しい誤謬であり、むしろ昨年の辛亥革命100周年は清の崩壊による領域不安定化100周年として記憶されるべきある。

中国問題は日本問題でもある

 結論として、国家のありかたそのものがリベラル・デモクラシーの実現と直結しており、しかも計り知れない混乱につながりかねないという一大問題に比べれば、広東の農村における事件がもたらしたものは、当事者にとって気の毒ながら小さな問題に過ぎない。今後中国で引き起こされるあらゆる下からの要求が果たして平和的な体制転換につながるか否かは、常に「国家の統一」という、中国にとって最も困難な問題との関連で考えられるべきであろう。

 そして、この当面考え得る極端かつ悲劇的な二分法ではない穏健な解決策を模索するのは、第一に中国の全ての人々の問題であるが、同時に中国と関わり合いを持つ全ての国々の問題でもある。何故なら、投資や技術供与など諸外国の経済的な対中関与、そしてそれを加速させた「チャイナ・ファンタジー」、すなわち「経済発展による社会の開放こそ、中国が西側と同じ価値観を共有するに至る最良の道である」という、中国ナショナリズムの過激な信念を正面から捉えようとしない甘美な思い込みこそ、過去20年来の中国の経済発展を加速させ、中共が動かし得る政治資源を圧倒的なものにし、人々を抑圧する構造を固定化したからである。


◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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