2024年12月9日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年10月9日

 9月14日にサウジのアブカイクの石油施設にイラン(少なくともイランに何らかの関係のある勢力)による攻撃が仕掛けられて以降、米イラン間の戦争があるのかどうかが、現在の中東における最大の焦点となっている。

Rawf8/iStock / Getty Images Plus

 確かに、イランの最近の挑発はレッドラインを超えてはいない。米軍に対する攻撃、米国本土へのテロ攻撃、米国船籍の船に対する発砲をした訳ではなく、石油輸送ルートに干渉して米国内の価格高騰を招き、核計画を推進して今にも核爆弾を手にする状況に至り、あるいは米国が防衛を約束する国に侵攻した訳でもない。

 しかし、イランの行動が米軍に対する攻撃のようなレッドラインを超える危険性はある。その場合、トランプは容認し得ず、軍事的な対応を余儀なくされる。従って、軍事的対決の可能性は高まりつつあると言える。イランも愚かではなく、慎重に計算して行動するであろうから、アブカイクの規模の攻撃が再度起こると予断する必要はないが、仮に起これば、米国が軍事的報復を見送ることは困難であろう。

 9月23日、英仏独の首脳はニューヨークで会談して共同声明を発出、サウジアラビアに対する攻撃についてイランを非難した。これも、上述のような危機感があってのことであろう。声明が、アブカイクの攻撃はイランに責任がある、と言っているのは別段驚きではない。しかし、この声明に「イランがその核計画のための長期的枠組み、および、そのミサイルとその他の運搬手段をはじめとする地域の安全保障に関する諸問題、についての交渉を受諾すべき時が来たとの我々の確信を再度表明する」との一文があるのは意外である。声明は、英仏独のイラン核合意に対するコミットメントを確認してはいるが、この一文は英仏独が核合意は欠陥品であり交渉し直す必要があるとのトランプの路線に転換したことを意味する。これまで、欧州は核合意を守る立場で行動し米国とは一線を画してきたことが、イランに行動を自制させる上で一定の効果を持っていたように思われる。この立場の変更は、アブカイクの事件だけで説明出来るものか、他に何か事情があったのか不明である。いずれにせよ、核合意が崩壊する可能性が高まったかもしれない。なお、英仏独の立場の変更を受けて、イラン核合意に一貫して批判的なウォール・ストリート・ジャーナル紙は、トランプおよび彼の政権の「最大限の圧力」戦略の正しさが立証されたと絶賛する社説を掲載している(Europe Turns to Trump on Iran、WSJ、July 24)。

 英国のジョンソン首相に至っては極端である。9月23日のNBCのインタヴューで「トランプが正しく述べたように、イラン核合意は悪い取り引きである。多くの欠陥がある。イランはその地域で破壊的に振舞っている」「悪い取り引きなら、より良い取り引きをやろう」「より良い取り引きが出来る男が一人いる。それは米国の大統領だ。非常に素晴らしい交渉者だ」とまで述べている。

 イランに交渉の道を選択させ、戦争への道を回避するのが最善であることは言うまでもない。しかし、イランのザリフ外相が「トランプは交渉の扉を閉じた」「ポンペオは米国のやっていることは経済的テロだと認めた、彼は国際刑事裁判所の尋問に備えるべきだ」と言い、ポンペオ国務長官が「ザリフはイランの外交政策に真の影響力を持たない嘘つきだ」と言っているようでは、交渉とはならないであろう。

  
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