世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年9月17日

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 従来、中東の対立軸と言えば、イスラエル対アラブの対立が主で、「中東和平」は、イスラエルとパレスチナ(PLO:パレスチナ解放機構)の和平合意を意味した。

 しかし、近年、「アラブの春」以降、中東諸国の様相が劇的に変化すると、中東力学の構図も大きく変化した。特に、中東の大国の一つイラクが、サダム・フセイン後、安定した統治が出来ず、ISISの台頭を許し弱体化した後、隣国のもう一つの大国イランが、中東地域で存在感を増すようになった。イランには、かねてから核兵器開発の疑惑もあり、中東の核兵器保有国と言われているイスラエルは、その優位性を失うことに神経を尖らせている。

svarshik/rustamank/iStock Editorial / Getty Images Plus

 そんな中東地域の中でも、レバノン、シリア、イラクでは、長く内戦が続き、安定した統治が行われていない。それら諸国において、実は、イスラエルとイランの対決が深まっている、と指摘したのが、ジョナサン・スパイヤー・エルサレム戦略研究所研究員である。彼は、8月27日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙で、レバノン、シリア、イラクは国家が正統な力の行使を独占しておらず、国家の体をなしておらず、この 3か国がイラン=イスラエルの「戦争」の舞台になっていると述べている。このイランとイスラエルとの国家間の紛争には、イスラエル軍やイランの革命防衛隊も関わり、もはや「戦争状態」と、スパイヤー氏は警笛を鳴らす。

 この状況は今後どう発展していくのか。 

 イランとイスラエルの国家間対立がますます深まっていくというのが最もありうるシナリオであろう。この対立では、今のところ、イスラエルの軍事能力がイランを圧倒しているが、戦略的には、攻勢に出ているのはイランであり、イランの方が明確な目的を持っているので、イランがますます強くなる可能性がある。 

 いまの状況を改善していくためには、レバノンとイラクについては、現在の政府が主権国家としての実質を備えるように努力することを助けていくということだろう。シリアについては、アサド政権の下での国家再建を支援する気に西側諸国がなることはあり得ない。アサド政権の生き残りを可能にしたイランとロシアが何とかすべきであるが、彼らは今の状況が続くことをそれほど問題とは思っていない節がある。 

 そうなると、シリアにおけるイランとイスラエルとの紛争は止みにくいだろう。また、広大なイラクを治めるのに、シーア派、スンニ派、クルド族との共存も欠かせないが、民主主義で最大の人口を有するシーア派は、同じシーア派が大多数を占めるイランに親近感を持つし、イランの革命防衛隊や情報機関も、これらシーア派にアプローチしている。一方、スンニ派は、サダム・フセイン時代のエリート達であり、なかなか現イラク政権の中枢を占めるシーア派と上手くやって行けるかわからない。また、中東では、イランに対して、スンニ派の大国サウジの影響力もある。

 レバノンについては、宗派間のバランスをとって統治しているところ、イランが支援する武装勢力ヒズボラが、レバノン国内のシーア派に影響力を与え、スンニ派のハリーリ率いる政権を脅かしている。

 こうした複雑化した中東地域では、暫く、イスラエルとイランの国家間対立を含む紛争は続くのだろう。

  
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