米国の追い上げ
これまでの研究開発では「大学などがバラバラにやっていては、資金の潤沢な米国には勝ち目がないので、京大、慶応大学、大阪大学、理化学研究所などが協力する『オールジャパン』の体制を組んで研究成果を挙げてきた。しかし、米国ではハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)など、一つの大学で『オールジャパン』と同じくらいの研究予算と人材を集められる。ベンチャー企業がいくつもあり、大手の製薬企業と手を組んで、iPS細胞を使ってパーキンソン病の治療法を開発するなど、日本を追い上げてきている」と競争が激化している現状を紹介した。
英国やカナダも米国に対抗してこの分野の開発研究に政府が支援に乗り出しており、「日本も大学だけによる研究開発には限界がある」と強調した。
運営資金が足りない
「CiRAは国からの支援を受けて国のプロジェクトとして研究を進めてきた。年間約60億円の予算だが、そのうち50億円は年限が区切られた資金であるため、多くの職員は非正規雇用になっており、有能な人材を維持するのが難しい。私もマラソンを走ることで寄付募集活動をしているが、非常に苦しい予算でCiRAを運営している」と運営資金の足りない現状への理解を求めた。
「CiRAに対しては13年から10年計画で毎年、政府から支援を受けている。10年後の23年には支援額が大幅に減らされるかもしれないので、その時に備えて寄付活動を行ってきた」と説明した。
「日本では研究に対する寄付を行うことが根付きつつある。草の根の寄付も増えている」と指摘した。その上で「寄付金がもらえるのなら、その分、政府の支援は減らすべきだ」という意見が自民党などから出ていることに対しては、「寄付金があるから支援を減らすというのは、寄付をしてくれた人に対しての『冷や水』になるので、これだけは絶対やめてほしい」と訴えた。
iPS細胞のストックは国民の貴重な財産
今後の国の支援について「CiRAが作ってきたiPS細胞のストックは国民の貴重な財産で、われわれはこれをしっかり守る使命がある。いまiPS細胞を使った臨床がいくつか行われており、これを製薬会社に引き渡すためにはあと5~10年は掛かる。またそのころには次世代の研究テーマ、例えば、現在年間何兆円も医療費を費やしている人工透析が不要になる腎臓組織を再生できる新しい開発も進むと考えられるので、最も楽観的に見てもあと10年間は支援が必要だ。この研究の意義を理解してもらい、100%の支援は望まないが、引き続き国からの支援をお願いしたい」と述べた。
自民党などの中にはiPS細胞の研究が一段落した段階で、支援を止めるべきだとする意見が出てきており、山中教授はこれに対して「これだけ評価されている研究に対しての支援額をゼロにしてしまうのは理不尽だと思う。われわれの説明不足もあるが、今後、支援をどうするかについては透明性のある場で議論して決めてほしい」と注文を付けた。
2019年11月13日にアップされた本記事ですが、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)国際広報室より、本文中に多数の誤りがある指摘を受け、14日に修正して再度アップさせていただきます。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。