人間の皮膚や血液から作り出すiPS細胞を再生医療に役立てようと研究している山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長(CiRA、サイラ)は11日、日本記者クラブで「iPS細胞研究の現状と課題―橋渡しハブとしての財団設立」と題して講演した。
「これまでiPS細胞を使った再生医療で日本は世界の先頭を走っている。加齢黄斑変性などは手術まで行われてきているが、臨床までには多くの資金と時間がかかる。民間企業に橋渡しするハブとして財団を設立したが、財団への寄付が増えたからといって政府からの支援を減らされると困る」と述べた。
研究開発に膨大な資金と期間
研究の現状については「加齢黄斑変性では14年に患者自身のiPS細胞を使った手術が行われた。心不全や脊髄損傷の臨床研究の承認もされ、少子高齢化で将来不足が予想される献血を補うものとして血小板を作る研究も進んでいる。しかし、自分の体の細胞から作るiPS細胞は膨大なお金と時間が掛かり、14年に行った加齢黄斑変性の患者さんの臨床研究の場合、1年で1億円がかかるなど、問題点も分かった」と指摘した。
iPS細胞バンク
この課題を解決するために他人の細胞を使ってiPS細胞を作り、ストックしておくバンクを作ることになった。「他人からこの細胞を作ると、移植の際に免疫が拒絶反応を起こすため、日本人に最も多い免疫型(HLA)を持っているドナーからiPS細胞を作ることにした。
(※注)iPS細胞には2種類のバンクがある。患者さんの細胞から作った「疾患特異的iPS細胞バンク」と健康なボランティアの方から作製した「再生医療用iPS細胞ストック」。ここでは後者のストックの話をしていいる。また、後者は細胞数はバンクというには少ないので、ストックという表現にしている。
この結果、4種類のiPS細胞で日本人の約40%に対して免疫拒絶反応が少なくiPS細胞から作製した細胞を移植できるようになった。この細胞を使えば、高齢の患者さんには肺炎などの副作用の心配がある免疫抑制剤の使用を少なくできるため、患者の負担も大幅に減らすことができる」と日本で生まれた画期的な技術だと説明した。
この細胞を使って、17年3月には加齢黄斑変性、18年10月にパーキンソン病、19年7月には角膜上皮幹細胞疲弊症の手術が行われた。しかし、残りの60%の患者にも使えるように備えるためには、何十種類もiPS細胞を作る必要があり、数十年も掛かる難題が浮上した。
「これを解決するためにHLAの遺伝子をゲノム編集で作り換える新しい技術が登場した。この技術を使えば日本人の70%以上の患者にiPS細胞を移植できるようになり、将来的には全世界の人を対象に、拒絶反応が少なく細胞が使えるようになる。しかしこの技術の効果と安全性についてはまだ検証されていない」と指摘した。