今年のオートモビリティLAで、AIについてのパネルディスカッションが行われた。パネリストはClinc社の自動車部門担当ブライアン・ライダー氏、アウディ社の製品管理担当副社長フィリップ・ブラベック氏、アマゾン社のアレクサ・オートモティブ副社長ネッド・キュリック氏、中国のNIO(上海蔚来汽車)社マシンラーニング部長タオ・リアン氏。
中心となったのは車内でのボイスコマンドによるAIの働きについての考察だ。車内のいわゆるハンズフリーでは様々なことが出来る。電話をかけたりインターネット検索をしたり、マップで道順を確認したり、IoTを使ってネットショッピングや家の様子をモニターしたり、なども可能になった。
しかし機能だけは便利になっていくが、ボイスコマンドの大きな問題点は「AIが音声を正しく認識しない」ことに利用者が不満を持っている、という点だ。米国人であってもニューヨークや南部の訛りがあり、アマゾンアレクサが正しく聞き取ってくれない、と訴える人は実は結構存在する。一緒にアレクサに話しかけても、筆者の日本語訛りの英語は聞き取っても早口のニューヨーク出身者の英語は聞き取れない、というのを実際に経験したことがある。
アマゾンでは「アレクサは使うごとに学ぶシステムであり、初期に比べればどんどん改善している」という。AIを開発する企業が最も注力するのは3つのS、Smart Speed Securityと言っても過言ではない。もちろんこれらは今後ますますAIが我々の暮らしに入り込んでくる中で必要な要素ではあるが、「AIが暮らしに欠かせなくなるからこそ、よりエモーショナルな関係が必要で、そのためにはAIはToo Intelligentではない方が良い」という考え方を示したのが中国のNIOだ。
NIOとはどのような企業なのか。一口に言えば「ライフスタイル・カンパニー」だとリアン氏は語る。業務としてはEVメーカーであり、AIにも注力しているが、ニオハウスという「アップルストアのような店舗」を展開し、そこでは車からコーヒーバーまで、様々なライフスタイルにまつわるグッズが販売されている。欧州の有名デザイナーと提携したファッションライン、オモチャなどまで揃えられているという。
中心となるEVは現在2つのモデル、ES6とES8を発売中で、価格はそれぞれ35万8000人民元(約550万円)、44万8000人民元(約700万円)からとなり、中国市場の中でもラグジュアリーの部類になる。しかしNIO社の車には他社にない特徴、
リアン氏が賢すぎないAI、と表現するのはこのNOMIについてだ。しかし動画を見ても、実際にはNOMIはかなり賢い。オーナーが近づけばドアを自動的に開けるし、雨が降れば開いていたルーフトップを自動的に閉める。車へのショッピングデリバリーに対応してトランクを開け、デリバリーが行われたことをオーナーにメールで通知する。車内エンターテイメントからIoTまで、話しかけるだけでこなしてくれる優秀なチャットボットなのだ。
しかしNOMIは単純なアニメーションで感情を表現する、子供のようなインターフェイスを持つ。この親しみやすさこそが、人々がNOMIに惹かれ、話しかけたくなる理由なのだという。ボイスコマンドを行う場合、多くの人は「誰それに電話をかけて」「近くのレストランを検索」など、短い言葉で目的を達成しようとする。しかしNOMIには友達に語りかけるように笑顔で接する人が多い。
つまり技術面ではそれほどの変化はなくとも、子供のようなインターフェイスにより親近感を持たせる、ということが今後のAIには必要とされる要素だ、とNIOでは考えている。実際NIOは独自でAIを開発、というよりもデジタルパートナーのサービスをアレンジするやり方を取っている。今後のビジネス拡大についても、アリババやテンセントのような中国大手、あるいは米国ではグーグルアンドロイドやアップルiOSなど、市場に最もふさわしいパートナーを見つけることで普及を進める、という。
そしてこの手法は米国でも高く評価されている。Clinc社はNOMIのデモを「非常に興味深い、米市場に早く導入してほしい製品」と語っていたが、現在中国市場だけで利用できるNOMIの米国進出待望論もあるのだ。