2024年12月23日(月)

From LA

2019年10月31日

 カリフォルニア州のストックトン市が全米初のユニバーサルベーシックインカムのテスト支給に乗り出してから8カ月が過ぎた。元々18カ月の試験的導入で、対象者も全市民ではなく所得が平均値(4万6000ドル)よりも低い125人が選ばれ、毎月500ドルを受け取っていた。

(stevanovicigor/gettyimages)

 プログラムそのものはあと10カ月続くが、受給者がこの金額を何に、どのように使っているのか、という中間報告が出された。まだ限定的なデータではあるが、人々は主に支給額を食料品、衣服、電気ガス水道代など、日常に必要なものの支出に充てていることが明らかになった。

 ユニバーサルインカムへの批判のひとつが、「余分な収入が得られることで人々はそれを贅沢品、嗜好品などに使い、生活費として機能しない」「失業者が求職する意欲を失う」などだったが、今回の125人のおよそ半分はパートもしくは完全雇用の形で仕事を持つ人々で、ユニバーサルインカムがあるから、と離職した人はいなかった。つまり今回の結果はユニバーサルインカムが当初の想定通りに機能していた、ということを裏付けている。

必要なものに正しくお金を使っている

 ストックトン市長、マイケル・タブズ氏は「我が国には経済的困難と闘っている人々がまだまだ多い。また有色人種はドラッグ、アルコール、ギャンブルなどで貧困に陥る、という偏見もある。今回の中間報告は、人々が決して支給された金額をそのようなことに使うのではなく、生活に必要なものに正しく使っている、ということの例証になる」と発言した。

 ユニバーサルインカムにはフェイスブックのマーク・ザッカ―バーグ、テスラのイーロン・マスクら、支持者も多い。また、現在来年の米大統領選挙に民主党候補として立候補中のアンドリュー・ヤング氏は、ユニバーサルインカムを選挙戦の最大の公約に掲げている。同氏は「大統領に就任したら、18歳以上の米国人全てに毎月1000ドル、年間1万2000ドルを政府が支給する」としている。これは「フリーダム・ディバイド」と呼ばれている。

 今回のストックトンでのデータを分析したテネシー大学ステーシア・マーティン=ウエスト教授は、「受給者は40%の支給金を食料に、24%を衣料品などの日用品に、11%を電気ガス水道料金に、9%を車の修理、ガソリン代などに使っている。これは非常に合理的な金銭の使い道であり、貧しい人は金の使い方を間違っているから貧しくなる、という一般社会の思い込みは正しくないと証明している」とコメントした。

 ただしこの結果に疑問を唱える声ももちろんある。ストックトン市の住民は30万人以上で、今回の実験はそのうち125人というごくわずかな数字だ。これが正確なサンプルに成り得るのか、という疑問がそのひとつ。もうひとつは、500ドルはデビットカードの形で支給され、それが例えばスーパーで食料品に使われた、などのトラッキングが行われた。しかし支給されると同時に40%の人々が現金での引き出しを行っており、その現金が何に使われたのかを追跡するのは不可能だ。つまり今回のデータはあくまでデビットカードで買い物をした人のみが対象となっている。

 しかし、ユニバーサルインカムを推進する人々は、「何に金銭を使ったか、という事実よりも、ベーシックインカムの存在が人々の生活の質を向上させ、精神的な健康を保つ結果につながることが大切だ」と語る。すでに実施されているフィンランドでは人々の幸福度が上り、社会的な機構に対する信頼度が上がった、とされている。またカナダのマニトバでは医師の元を訪れる人々が8.5%減少した、という。


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