AIの能力は着実に進歩している。カスタマーサービスにAIを使ったチャットボットを採用している企業は多いし、多くの場合AIに質問すれば望む回答が得られる。ある調査によると60%の人が「チャットのみで問題解決できた」と回答した、という。
チャットができるなら当然文章も書ける。3年前にサンフランシスコで開催されたAIのコンフェレンスで「将来AIに置き換えられる職業」の中にジャーナリストが入っていて驚いたが、実際にAIによる記事作成を行っている新聞社は少なくない。
例えばAP通信は3カ月ごとに4000を超える企業収益に関する報告記事をAIを使って発行している。企業収益を報告するだけの単純な記事ではあるが、人が書いた場合、3カ月ごとに発行できるのは300件が限界だったという。
ワシントンポスト紙では「ヘリオグラフ」と呼ばれるAIを使い、高校スポーツなどについての記事を作成。また英国ではグーグルのデジタルニュースイニシアチブであるRADAR (Reporters and Data and Robots)が、政府発表の統計などを地方紙に供給しているが、これは人間が作ったテンプレートに沿って数字を的確にニュース文書化できる。
これらの例を見ると、AIが作成する記事というのは数字などのデータを元にしたものが多く、テンプレートさえ出来ていればそこにデータから読み取った数字を入れ込み、定型型の記事として完成させる、というものが多い。
つまりAIは膨大なデータにアクセスし、そこから必要な要素を取り出し、それをコンテンツとして生み出す能力がある。この能力に目をつけ、AIによるマーケティングを行おう、という試みが現在急速に広がっている。
現在の広告はブログ、広告コピー、ソーシャルメディア、ウェブサイトなど様々な分野に広がっている。しかも特にウェブやソーシャルメディアではある程度のターゲティングが必要だ。若者向けの広告を年配の人に送信しても興味を持たれない。ゴルフをしない人にゴルフウェアの広告を送信しても読まれることはない。
インターネットでは一度開いたウェブサイトやクリックした商品の広告が自動的に提示されることが多いが、これもAIが最適と判断して行っている。個人の行動から何に興味を持っているのかを割り出し、それに応じた広告を流すという手法だ。ここから一歩進み、広告のコピーそのものをAIで作成する、という動きがある。
米国に面白いブログサイトがある。This Marketing Blog Does Not Exist (http://thismarketingblogdoesnotexist.com)というもので、ここに掲載されているマーケティングに関するブログはFrac.tlという広告エージェンシーによるものだが、書いているのはGroverというAIなのだ。文章を読むとややぎごちない表現が目に付き、すぐに頭に入ってこない感じはある。しかし文法的にも正しく、意味もしっかりした英語の文章だ。Frac.tl社は「AIによるコンテンツ作成の可能性を試すためにこのブログサイトを開いた」と語っている。
米大手銀行、JPMorgan Chaseでは、AIマーケティング会社Persado社とマーケティング展開で5年の契約を結んだ、と発表した。同社はこの理由について「マシンラーニングにより生み出され、絞り込まれる言葉は、個人のマーケッターが主観や経験から紡ぎ出す言葉よりも公平さがあり、実際に機能する」と説明している。