五輪を彩るテクノロジー

2019年12月17日

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黒井克行 (くろい・かつゆき)

ノンフィクション作家

1958年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家。人物ドキュメントやスポーツ全般にわたって執筆活動を展開。主な著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『男の引き際』(新潮新書)、『高橋尚子 夢はきっとかなう』(学研)、『日野原新老人野球団』(幻冬舎)、『指導者の条件』(新潮新書)、『ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ』(木楽舎)他多数。

「球持ち」にこだわりNGへの挑戦

 東京五輪に向け、奥原選手は打球の強さを左右する「強度」だけでなく、コントロールを良くする「球持ち」にこだわった。狙った場所へ打つために、少しでも長い時間ラケットでシャトルを〝持つ〟ことを求めたのだ。同社はこれを実現するために、これまでNGとされてきたラケットの〝ねじれ〟に挑戦した。

「ジョイント(面とシャフトの接合部分)にパーツを入れしっかり固定し、ねじれを防ぐのがこれまで世界の常識だった。インパクトの瞬間のブレを抑えるためだが、あえてねじれに注目した」と橋口氏は話す。バドミントンのスイングは手首をねじりながら振るため、それに連動したある程度のねじれがないとシャトルに最大限の力を伝えることが難しいという発想にいったたのだ。ジョイントのカーボン繊維と樹脂を加減し、3~5ミリほどのねじれを生じるようにさせたのである。

 ねじれながら打つことは、瞬間的にシャトルを〝持つ〟ことになる。そのままねじれを使ってシャトルを押し出すことでコントロールされた打球を可能にした。上段から振り下ろすショットだけでない。下から突き上げるドロップショットにも生きた。球持ちの良さはシャトルにより回転をかけることができたので、コントロールだけでなく、鋭くドロップさせた。わずか1000分の1秒の球持ちにすぎないが、選手にはその違いがわかる。

 奥原選手クラスになると再現性が高く、プレースタイルはラケットに左右されやすいという。例えば、ラケットの重さが0・5グラム違うだけですぐにわかり、開発までに奥原選手は何度も実証実験に臨んだが、彼女は一切の妥協を許さず、数字だけでは計り知れない超微妙な違いの調整に一歩も引かなかったという。こうしてタブーとされてきた「ねじれ」を生かした世界初のラケットが誕生した。

 このラケットはもう一つ新たなテクノロジーが加わっていた。楕円の枠にトランポリンと同様の機能を取り入れた。トランポリンは外枠があって、内側にバネがあるが、外枠ががっちりしていなければ内側のバネの反発に影響が出る。同様の構造をバドミントンラケットにも応用し、外枠のカーボンは硬めで、内側のストリング(ガッド)と接触する側は柔らかめの二重構造にした。内外で素材を使い分けたわけで、これで強いショットを放つ反発性につながったのである。

 最新技術と〝ねじれ〟という挑戦が日本のバドミントン界をより高いところへ誘(いざな)ってくれることを期待してまない。

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