2024年11月22日(金)

五輪を彩るテクノロジー

2019年10月25日

 人類が「100メートル10秒」の“壁”を破って半世紀余りが経つ。

 その間、2009年にウサイン・ボルト選手がベルリンの世界選手権で9秒58の世界記録を出し、“壁”から数えて0秒42を縮めたわけだが、平均すれば1年間に0.01秒も縮めていない。そろそろ人間の限界に達しようとしているのだろうか?

アシックスが開発したピンレススパイク(同社提供)

ピンの「刺さりやすい」「抜けやすい」に向き合う

 アシックスは陸上短距離競技の最速に向けてのさらなる挑戦へ舵を切った。それはこれまでのシューズの常識を完全に覆す、いわば革命といっていいかもしれない。

 同社が昨年発表したスプリントシューズにはスパイクピンがないのだ。これまでのスプリントシューズは、ほとんどがスパイクピンの改良改善に進化を見出していたが、そのピンがない。この常識外れのテクノロジーに陸上関係者の誰もが驚きを隠せなかった。

 開発にあたったアシックス工学研究所の小塚祐也氏は、「小社は創業以来、選手の声に耳を傾けることを大切にしてきました」。 選手の「(このピンは)地面に刺さりやすい」「抜けやすい」という日常的に聞かされる声を真摯に受け止めた結果、「ピンが刺さったり抜けたりする時間を少しでも失くすことができればより速く走れるシューズができるのでは?」と着想を得たというのである。

 そもそもなぜ、ピンがあるのか?

 ピンは地面をしっかりとグリップし、引っ掻くような形で力を伝え、かつ速く走るために必要不可欠なのだ。ただ、「刺さりやすい」「抜けやすい」というのは過度にグリップが働いたり、不十分だったりする時に感じられることで、それは足への負担にもなってきた。

 たとえば、ピンを長くするとグリップ力は高まるが身体への負担が大きく、走るごとに不要な疲労を抱え込むことにもなる。それは、100メートルという距離でも起き、レース中盤から終盤にかけて影響を及ぼす。そもそもピンが長ければ速く走れるというわけではないのだ。必要なだけのグリップ力を維持しながら、いかに足への負担を軽減できるか。それが選手の声に応えることであり、引いては選手にハイパフォーマンスも期待できる。ここに「ピンなし」という常識外れの原点があった。


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