2022年6月30日(木)

五輪を彩るテクノロジー

2019年10月25日

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黒井克行 (くろい・かつゆき)

ノンフィクション作家

1958年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家。人物ドキュメントやスポーツ全般にわたって執筆活動を展開。主な著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『男の引き際』(新潮新書)、『高橋尚子 夢はきっとかなう』(学研)、『日野原新老人野球団』(幻冬舎)、『指導者の条件』(新潮新書)、『ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ』(木楽舎)他多数。

突起の配置や形に緻密な計算

 さらにピンによる「点」ではなく靴底全体という「線」で地面を捉えることが模索されたのである。

 試行錯誤の末、ピンに代わってカーボンファイバー素材をベースとした立体構造を靴底にしたのである。カーボンファイバーで強化された正六角形のハニカム形状の他、形や高さも違う突起が部位によってそれぞれの配置が計算された。足の裏でも部位によって力の入り方が異なる中で、より必要な方向にグリップする工夫が施されたのである。一見、船底に付着したまるでフジツボのようだが、これがアシックスが目論む“短距離革命”の、まさに縁の下の力持ちの実態である。

「これまでのピンが刺さって抜ける時間を一歩あたり1000分の1秒とした場合、100メートル=50歩で換算すると100分の5秒も短縮できます。これはメダルを決める大きな数字になります」(小塚氏)

 日本人初の100メートル9秒台を出した桐生祥秀選手と共に開発を始めたテクノロジーだが、桐生選手は最初、「ピンがないですね?」と、慣れきったスパイクピンと比較し、なかなか積極的に履くことがなかったという。まずは走行時に違和感があったのだろう。9秒台を出したのはピンありのシューズで、“履き替える”のにも覚悟があったのだろうが、今はピンなしを“当り前”としている。カタール・ドーハでの陸上の世界選手権にものぞみ、400メートルリレーでアジア新記録による2大会連続の銅メダルを獲得した。足への負担の軽減も顕著で、100メートルを一本走った直後、「もう一本いける」というほどだ。新たな〝相棒〟を足に、東京五輪を目指す。

 アシックスは“ピンなしシューズ”を「次世代のスプリントシューズ」と謳い、2020年に向けた開発の成果とするが、次のパリ五輪では世界の常識にまでなっているか? その時、9秒58が塗り替えられる時だ。

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             インタビュー ビル・エモット氏 (英『エコノミスト』元編集長)
Part 3   危機を繰り返すEUがしぶとく生き続ける理由  遠藤 乾
Part 4   海洋での権益を拡大させる中国 米軍の接近を阻む「太平洋進出」 飯田将史
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◆Wedge2019年11月号より

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