世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年2月10日

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 米イラン対立について、ジョンズ・ホプキンズ大SAIS教授のVali R. Nasrが、ニューヨーク・タイムズ紙に1月20日付で掲載された論説‘The Wrong Track for Confronting Iran’において、トランプのイラン対決政策は道を間違っている、アラブの中東は弱体化、分断化され昔のアラブではない、イランは思うほど弱い国ではない、トランプは対決と封じ込めの先のことを考えるべきだ、と述べている。これは興味深い論評であり、良く理解していなければならない中東の現実を指摘している。すなわち、(1)今のアラブ世界の国々が昔とは違って弱体化、分断化されている、(2)中東のアラブの国々が力と安定を築くことが必要だ、(3)今のイランを弱い国と思ってはならない、(4)泥沼に嵌らないようにトランプは「対決と封じ込め」の先のことを考えるべきだ、と主張する。

andriano_cz/iStock / Getty Images Plus

 今回の米国とイランの対立に対するアラブの国々や世界の反応は不思議なくらいクールだったとの印象を持つ。かつて声高に反イランを叫んできたサウジや湾岸諸国、エジプト等も表立ったトランプ支持の立場は表明していない。それぞれ、息を潜めて見守ったというのが実態ではないか。それに、UAEやオマーンは従来からイランとは一定の接触を保ってきた国であり、サウジなどから封鎖されたカタールは近年イランに接近していた。トルコは元来イランに近く、静かにしていた。更に、イスラエルは、種々の理由により、ネタニヤフが閣議で今回の米イラン対決は基本的に「米国の問題」であり、イスラエルから不用意な発言が出ないように念を押したという。中東のアラブ世界の秩序は大きく変わっている。今回のイラン対決は、よく考えれば、トランプの「孤独なイラン対決」だったのかもしれない。

 かつて中東の基軸はアラブのアイデンティティと団結だった。冷戦の終了、湾岸戦争を経てその秩序は大きく変わった。今やアラブよりもナショナルなアイデンティが優位になり、各々が自らの国益判断で動く世界になった。サウジのように、自らの国益に沿えばイスラエルとも疎通する。カタール封鎖のようなことも起こり得る。中東は、一層流動的な世界になった。冒頭で紹介した論説でNasrは、トランプはそのような中東アラブの変化を理解していないという。まさにそういうことかもしれない。

 もう一つの大きな問題は、イラン政権の崩壊があるかどうかである。その観点から1月14日に起きたウクライナ機のイランによる撃墜の行方を見る向きもある。しかし、Nasrは、イランは思うほど弱い国ではないと指摘する。種々の可能性を考えておく必要はあるが、そう簡単に崩壊することは考え難いのではないか。特に外部からの圧力による崩壊は考え難い。いずれにせよ、カギはイラン国民が握っている。

 なお、1月16日付けの最近のエコノミスト記事が、注目すべきことを報じている。それによれば、米軍がイラクで使用するアルアサド基地に対するイランによるミサイル攻撃を分析した結果に基づくと、イランのミサイル技術等が極めて正確なものになっているらしいということである。湾岸戦争の際に米国が行ったような入念、悠長な準備はもう出来なくなっているということであろう。イランとの戦争が起きれば第二次湾岸戦争の比ではなく、戦術的、短視眼的政策は通用しないということであろう。

  
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