世界で活躍する日本人国際派官僚
日本人国際派官僚の一例として、国際的な家畜の安全基準を定める機関で1924年に設立された国際獣疫事務局(OIE)の事務局次長に宮城島一明氏がいる。
昨年パリでOECD(経済協力機構)とIPCで共催したセミナーで、宮城島氏はOIEを代表してプレゼンテーションを行った。重要な国際機関で日本人が活躍しているのを見て、筆者は感銘を受けた。
同氏は現職の前にコーデックス委員会(消費者の健康保護、食品の公正な貿易の確保を目的として、63年に設立された国際的政府間機関。国際食品規格の策定を行う)事務局長の要職にあった人物である。
03年のメキシコシティ会議では、農林水産省技官出身で国際農業研究協議グループ(CGIAR)傘下の国際とうもろこし・小麦改良センター(メキシコ)のセンター長就任直前の岩永勝氏に会うことができた。
このセンターには20万種の種子が低温保管されており、その施設は日本からの政府開発援助(ODA)資金によって建設された。世界の食糧問題解決に取り組む重要な仕事に日本人が携わっていることは大いに誇るべきである。
民間人も積極活用しよう
だが、上記二例の特徴は単発的、個人的チャレンジの範疇であって、継続性が担保されていない点が指摘されよう。
その点で各省ばらばらの人事政策ではなく、各省が連携をしてバランスの取れた人材供給が求められる。加えて、人材の多様性を確保するには、民間人の活用も必要であり、例えば商社との交流・連携の可能性を探ることも有意義ではないだろうか。
「世界農業食料クラブ」に入ろう
色々な国際機関の会議に参加した経験から、多くのメンバーが複数の組織に関与している重層的なグループの存在が明らかである。
例えば、IPCのケースでは、民間企業出身者や中国代表は、ダボス会議のメンバーであるし、国際食料・アグリビジネスマネジメント協議会(IFAMA)や持続可能な農業イニシアティブ(SAI)のメンバーも兼任している人達がいる。
IPCメンバーの経歴を見ると、WTO、世界銀行、国連貿易開発会議(UNCTAD)など、国際機関関連の要職を歴任した元官僚も多い。国際的官僚、NGO事務局、シンクタンク研究員の需要が世界中に結構あることがわかる。
このような人的サークルを仮に「世界農業食料クラブ」と呼ぶならば、そのメンバーに入っておくことは決してマイナスになることはないだろう。
世界的にも有名で、「世界競争力ランキング」を発表するスイスのビジネススクールIMD(経営開発国際研究所)の、ジャン・ピエール・レーマン博士(国際政治経済学が専門で,オックスフォード大学で「19世紀の日本経済史」論文により博士号取得した知日派)は、日本に必要なこととして、「国際社会で友人を作り、人々に(良い)影響を与えることだ」と述べている。
IAEA天野事務局長に続く人材を
国際機関のスタッフは公募制を取っているので、国が積極的に人材を育成して送り込めば、費用分担率に応じたスタッフの派遣は理論上可能である。
しかし幹部人事は、主要国を中心として選定されるポリティカルポストである。この点、日本人で現在活躍している人は、既述の人を除けば、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長くらいしか、筆者には思い浮かばない。