新型コロナウィルスの感染拡大で、米国大統領選挙の集会も通常のようにはできなくなっている。そんな中でも、民主党候補はバイデン元副大統領に決まり、共和党の現職トランプ大統領と争うことになった。11月の投開票、来年1月の大統領就任式も視野に、既に政策提言が始まっている。
例えば、4月13日付のThe Atlantic誌では、民主党系のカート・キャンベル元東アジア・太平洋担当国務次官補とブルッキングス研究所シニアフェローのトーマス・ライトが、バイデンが大統領選挙で勝利した場合は、極めて困難な政治状況下での大統領就任になるとして、政府と国民の信頼関係の再構築、米経済の再生、国際社会の再結集と指導力の発揮、中国を念頭においたアジア中心の外交政策の策定の必要性を指摘している。
キャンベルは、民主党政権でアジア政策に深く関与し、日本の専門家ではないが知識は豊富で、米国の対日政策を熟知している。現在はアジア市場を対象にした投資関連会社の会長兼最高経営責任者を務めており、アジア情勢に精通している。ライトは、欧州を中心とした国際関係の専門家であるが、国際会議などで日本を含むアジアを訪問している。上記寄稿は、キャンベルとライトがトランプ後を期待して、アジア政策について意見交換し、ライトがまとめてアトランティック誌へ寄稿した。バイデンが民主党の事実上の大統領候補に決まった直後に、バイデンが勝利した場合に取り組むべき課題を指摘し、存在をアピールしたとも言える。
キャンベルとライトが指摘した、政府と国民の信頼関係の再構築、米経済の再生、国際社会の再結集と指導力の発揮、中国を念頭においたアジア中心の外交政策への転換はもっともであるが、日本の視点からは中国を念頭においたアジア中心の外交政策への転換が最重要であることは論を待たない。問題はその内容である。クリントン政権、オバマ政権においては、中国の歴史的台頭を背景に、中国に対しては安全保障面で警告を発しながらも、一般的には経済面での期待を込めて融和的な姿勢が採用された。キャンベルは、オバマ政権の第1期において中国に対して「戦略的再保証(Strategic Reassurance)」を主要テーマとして掲げ、結果として中国のアジアにおける領土的野心を許したスタインバーグ元国務副長官と親交がある。
論考で中国に触れた部分は「戦略的再保証」を連想させるような内容になっているが、バイデンに連なるアジア政策関係者の人選と具体的な議論については注意を払いたい。論考において、キャンベルとライトは、外交政策は、中東からアジアへと述べているが、これは、既にオバマ政権で「アジアへの軸足回帰」で言われていたことであり、オバマ、トランプ両政権を通じて、中東やアフガニスタンから、米国は兵力を撤退させてきた。そういう意味では、新しいことではない。
クリントン政権、オバマ政権では、アジアにおける最大の同盟国であるはずの日本とは距離が感じられる場面がなかったとは言えない。鳩山政権の日米同盟を含む外交政策上の迷走など、日本にも課題があったことは否めない。しかし、中国対応を中心としたアジア政策への転換を提言する本論考では、日本あるいは日米同盟について一言も言及がない。事実とは異なる面があるが、民主党系のアジア政策関係者の間では、バイデンが当選した場合には政権入りすると目される中堅を含めて、「日本は共和党寄り」というステレオタイプが定着している。また、シンガポールや韓国は、民主党系のアジア政策関係者に積極的に接触している。当然行われているはずだが、今からバイデン政権誕生の可能性に備えておくべきだ。
同時に、論考では、新型コロナウィルスへの対応への模範として、台湾、韓国、ニュージーランド及びドイツが挙げられているが、世界は、各国がどのように対処しているかを見ている。日本が、信頼のおける同盟国であり続けるには、自国の安全保障への責任と関与も重要になってくる。
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