米大統領選挙の民主党の予備選ではバイデン前副大統領が指名される可能性が高くなった。トランプ外交は、国際協調主義に背を向け、同盟を軽視し、極端な自国第一主義を推し進めている。仮にバイデンが11月の本選挙で勝つようなことがあれば、米外交は、西側で広く期待されているように、オバマ政権以前のような姿勢に戻るのであろうか。
この問いに対して、フィナンシャル・タイムズ紙のコラムニスト、ギデオン・ラックマン(Gideon Rachman)は、3月9日付けの同紙掲載の論説‘A Biden presidency could not turn back the clock on Trump’において、否定的な見方をしている。
ラックマンは、「西側同盟の復活を望んでいる欧州の人々は、トランプ政権が‘逸脱’だったとして終わり、バイデンが地政学の時計をオバマ政権終了時に戻してくれることに期待している。それは良い考えだし、バイデンもそれを目指しているが、幻想だ」と手厳しい。「トランプ時代は米国を、また米の世界との関係を大きく変えた。米国の社会的、政治的分断が元通りに治る可能性は低い」とも指摘する。そして、ナショナリズムと反リベラリズムの世界的なシフトというグローバルな要因がある。トランプ政権の時代背景はこれからも続き完全に元通りにはなれないという、ラックマンの見方は少し悲観的に過ぎるかもしれないが、傾聴に値する。新型コロナへの各国の対応ぶりを見ると、世界中でグローバリズムや国際協調よりもナショナリズムや一国主義の流れが強まっていることを痛感させられる。
他方、ラックマンは、バイデン政権になれば大統領職の尊厳の回復、専門能力や専門家への尊敬の回復など重要な改善が期待できるとも述べる。「人を馬鹿にした発言や陰謀論はなくなるだろう」との指摘もその通りであろう。地政学の時計の針を完全に戻せないにしても、これらが実現されれば重要な修正と言ってよいと思われる。おそらく、バイデン政権になれば、同盟関係は今より重要視されるだろう。欧州は安堵するだろう。なお、日米同盟関係は、幸いトランプ政権下でも、双方の努力により旨くハンドルされている。
ラックマンは、米中関係は一層厳しくなる可能性があるとの見方を示しているが、その通りであろう。特に、人権問題や南シナ海問題が米中関係の課題として加わると見られる。これは、日本や世界にとって悪いことではない。今の中国の振る舞いに問題があることは明らかである。それを国際スタンダードに直してこそ、中国は国際社会の良きメンバーになる。中国にも外圧が必要な時もある。
ラックマンは触れていないが、バイデン政権について、もう一つ問題になるのは、経済・貿易である。米国のシンクタンク、外交問題評議会からのアンケートでも、バイデンはTPP11への参加については、本選挙への影響を心配してか、明言を避けている。ただ、難しい経済、貿易交渉であっても、関税の脅迫などを使い、ゼロサムゲームの戦闘モードの交渉は止むであろう。
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