今回は特定社会保険労務士で、人事コンサルタントである小岩広宣さん(46歳)にお話を伺った。社会保険労務士法人ナデック代表社員(職員9人)や株式会社ナデック代表取締役を務める。ともに三重県鈴鹿市に本社を構える。
人材派遣会社の管理部を経て、2002年に独立した。09年に、人事労務サービスを提供する社会保険労務士法人ナデックを設立。サービスの対象は主に鈴鹿市、四日市、津市を中心とした三重県全域、名古屋市を中心とする愛知県内の企業が多い。
全国でも数少ない人材派遣分野の社労士として活動し、人材ビジネスの労務管理や許可取得、行政対応、労使トラブル対策など、年間約200社の指導に携わる。全国での講演やセミナー講師も多数。最近の講演テーマで多いのは、「派遣労働者の同一労働同一賃金」や「アフターコロナの働き方改革と労務管理」など。
小岩さんにとって「使えない上司・部下」とは…。
働く場所や行動を縛ったところで、誰も幸せにはならない
コロナウィルスの感染拡大が止まり、社会にある程度の落ち着きが出てきた頃に企業の人事・労務のあり方は2極化しているように私は思っています。
1つは、在宅勤務を始めとしたテレワークを状況に応じて積極的に導入し、社員の就労環境をよりよきものにしていく会社。もう1つは、それらの取り組みに消極的な会社。業種や社内の状況を考慮すると、テレワークに取り組むのが難しかったり、ふさわしくないケースもあるので、一概には言えない場合もあります。
私は、会社が働く場所や仕事の仕方や進め方、個々の社員の行動を必要以上に拘束したり、しばる時代や環境ではないと考えています。ITのツールや技術が発達し、市場環境は以前と比べると大きく変わっているのです。かつては、ほとんどの業界や会社で同じ時間帯にオフィスや工場に出社し、仕事をしていました。今は、様変わりしています。皆と同じところで、同じ時間、同じ方法、仕方で黙々と仕事をする人が認められ、評価される時代は基本的に終わりつつあります。
今後は、働く場所や行動を状況に応じて柔軟にできる会社が成長していくのではないか、と思うのです。たとえば、新卒や中途採用で若い世代を採用しようとする時、テレワークを一切認めない会社はエントリー者が伸び悩むのかもしれません。
AI(人工知能)社会の行く末も考える必要があります。10∼20年後に人間の労働は相当な範囲でAIに取って変わられると言われています。大切なのは、人間にしかできない労働をすることです。そのような社会になった時に働く場所や行動を必要以上に縛ることに大きな意味があるとは思えません。働く場所や行動を縛ったところで、誰も幸せにはならないでしょう。在宅勤務などで就労環境を柔軟にした会社が生き残りのためのある意味での武器を獲得することになるではないか、と私は考えています。
発想を変えないと、テレワークは上手くいかない
「使える、使えない」といった言葉は、派遣社員だった私が20代の頃に時々、聞きました。たとえば、工場に派遣労働者を派遣する前に、管理職が「あいつは使える、使えない」と話していました。私がそのように言われていたとしたら、きっといい気はしなかったでしょうね。その後、社会保険労務士となり、現在は職員を雇い、事務所を経営する立場です。職員を「使えない」とは思わないし、口にすることもありません。
多くの中小企業の経営者と会い、社員の労務管理の相談を受けます。最近は、「使えない」といった言葉を口にする方が減りました。時代が変わってきているのでしょうね。今年6月には、パワーハラスメント防止のために、企業や事業主に必要な措置を講じることが義務になる、いわゆる「パワハラ防止法」の施行が予定されています。
私の接する中では少数ですが、今も社員のことを「使えない」と話す経営者はいます。そのような経営者は、主に2つのタイプに分けられます。1つは、自らの価値観を持ち、それを軸に社員を評価、判断しようとします。もう1つは、社員に働きがいを感じることができるだけの裁量権を与えていないタイプです。たとえば、仕事の進め方ややり方、時間の管理など様々なところまで経営者が管理、監督をします。
おそらく、2つのタイプの経営者には自らの長年の経験にもとづく成功体験の影響があるのでしょう。自分がこのようにして上手くいったから、部下にもそれと同じものを求めるのではないか、と思います。特にたたき上げのベテランの経営者に目立つように感じます。
私の知る範囲では、最近は変わりつつあるのです。労務相談を受ける経営者の中には、信用できる社員を役員にして権限を大幅に与え、裁量の余地を与えている人もいます。そのような会社の中には、業績が拡大しているケースもあるのです。