世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月1日

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 5月18-19日、WHOの年次総会がビデオ会議形式で開催された。新型コロナウイルスをめぐる米中の対立、米国によるWHOが中国寄りであるとの強い批判、さらには米国のWHO脱退の示唆などもあり、注目を集めた。

daboost/iStock / Getty Images Plus

 米国のトランプ大統領は総会が行われている最中の5月18日、WHOのテドロス事務局長宛に書簡を送り、WHOが30日以内に改革を約束しなければ拠出金を恒久的に停止し、米国が脱退する可能性があることを改めて示唆した。しかし、フランスのマクロン大統領、ドイツのメルケル首相は、総会での演説(トランプは演説をしなかった)で、ウイルスとの戦いにおけるWHOを通じての世界的協力への強い支持を表明し、トランプの米国とは一線を画した。

 一方、中国の習近平主席は、総会での演説で、中国は危機を抑えこみ、それを乗り越えたこと、中国は世界、特にアフリカを助ける準備があること、危機を収束させた後、何が起こったかの見直しを含め、透明性を支持すること、ワクチンは世界的公共財と見られなければならないこと、などを表明した。また、途上国向けに20億ドルの支援を約束した。

 豪州が提起していた新型コロナウイルスの起源に関する調査については、EUが決議案を見直して独立した検証作業の実施などをWHOに求めることを提案、豪州も共同提案国に加わった。中国は、豪州に対して経済制裁を含む報復を行っているが、EUが提案した修正案を受け入れ、同じく共同提案国に名を連ねた。なお、決議では、責任の追及はしないことが明記された。
 
 今回の新型コロナウイルス感染拡大については、中国が初期に隠蔽しようとしたこと、WHOも中国の主張に従い、緊急事態宣言を適時適切に出さなかったこと、中国からの入国制限措置をこれまた中国の主張を受けて過剰な措置と批判したことなど、中国とWHOには多くの過失がある。しかし、WHO総会では、上述の通り、中国は20億ドルの支援を約束するなどの点数稼ぎをうまく行い、中国責任論をとりあえず上手に回避したと考えられる。

 ただ、今後のウイルスの起源などに関する調査がどうなるかにより、問題の再燃はありうるだろう。この調査がどういうふうになるかが今後一つの焦点である。また、中国は、調査を求めた豪州への経済制裁措置をしているが、それをどうするのか、見ていく必要がある。

 米国の対応ぶりについては、拙劣さがあったことは否めない。トランプ政権が世界各国とのコンセンサスづくりを目指さず、自己の影響力を過信しがちで、いわば戦術面で失敗しているところがあるということかと思われる。元スウェーデン首相のカール・ビルトは、‘The post American world is now on full display’と題する論説をワシントン・ポスト紙に5月19日付で寄稿し、今回のWHO総会の様子を「これはポスト・アメリカの世界である。中国は自己主張し、自信に満ちている。ヨーロッパは世界的協力から救えるものを救おうと努力している。トランプ政権は外にいて全方向に重火砲を打っているが、その効果は限られている」と描写している。ビルトは1991年から94年までスウェーデンの首相を務め、2006年から外相も務めた中道保守の政治家で、スウェーデンのEU加盟を推進した人である。彼の今回のWHO総会を見ての感想は、それなりに傾聴に値する。

 テドロス事務局長は中国寄りに過ぎるとの米国の批判は当たっている。しかし、WHOとは別組織を作ることを主導しそれを実現するのが難しいのであれば、WHOに残り、その中で影響力を強めていく路線をとるべきであって、脱退を示唆したり、拠出金を削減するのは、その目的実現に全く資さないと言っていいのではないか。中国のその他の行動、例えば中国は感染をよく抑え、世界に貢献したなどの言説は、今後精査していくべきで、そのためにも米国はWHOの調査に深く関与することが望ましいと思われる。

 台湾が今回のWHOに参加できなかったことは残念であるが、日本の近隣に保健分野で世界の情報から隔離された空白地帯があることは日本のためにならない。この点は引き続き問題提起していくべきであろう。

  
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