2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年5月19日

 新型コロナウイルスがパンデミックとなって世界を席巻する中、中国の不透明性がウイルスの発生源に関する危険な陰謀説の蔓延を招いている。陰謀説の蔓延がなぜ危険なのか。エコノミスト誌5月2日付けの記事が、次の通り的確な指摘をしている。

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・コロナウイルス発生源論争を終わらせることが特に重要なのは、危険な病原体を扱う研究所が増えてきたからだ。

・科学者たちはそうした研究によって新たな病気のふるまいを理解し、それが治療薬の開発につながり得る。従って、各国政府がこうした研究のもたらす利益と危険性を比較検討し、違反を監視し、完全な透明性を促すことが重要だ。残念ながら政策はそれとは反対の方向となっている。

・世界にとって重要なのは、新型コロナウイルスがどのようにコウモリから人に感染したか、その明確な説明であり、それなしでは陰謀説がはびこり、良識ある科学的発見を危うくする。つまり、必要なのは全ての国による合理性、協力、完全な透明性だが、現時点で世界が手に入れつつあるのはそれらと反対のものだ。

出典:‘Where did the novel coronavirus come from?’(Economist, May 2, 2020)

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 Covid-19の起源の問題は、科学的な見地から情報の開示を含む国際協力のなかで解明されるべき問題である。しかるに中国は、自らへの責任追及を回避することに重点をおいて、中国が新型コロナウイルスとよく戦い、このパンデミックの拡大を抑え、世界に貢献したなどというプロパガンダを行っている。その上、一時期、外務省の副報道官は米軍がこのウイルスを中国に持ち込んだとの偽情報を拡散させた。この偽情報にはさしたる根拠がなかったと今は認めているが、極めて遺憾な振る舞いであると言わざるを得ない。さらに豪州やEU諸国に対して、Covid-19の起源の問題の調査、中国のプロパガンダについての問題提起に対し、貿易面での不利益を示唆して脅すなど、とんでもない行動をしている。例えば、豪州が今回の危機の原因の独自調査を提案すると、豪州製品のボイコットをほのめかしたり、EUが中国のウイルス関連の偽情報に関する報告書を作ると、報告書の公表は「協力に非常なマイナスになる」「中国は激怒するだろう」と述べる、などといった脅迫である。

 米国は、Covid-19 のパンデミックの拡大には中国の初期対応、隠蔽体質が大きな役割を果たしたと指摘している。このパンデミックの始まりが武漢からであったこと、初期対応に遺憾な点があったのは事実であり、この米国の指摘には一理ある。しかし、他方で、トランプ政権がこういうことを主張していることには、米国内での感染の拡大防止に初動で不十分な点があったことを覆い隠そうとする意図があるとも指摘されている。武漢ウイルス研究所からこのウイルスが流出したのか、武漢の海鮮市場でコウモリからセンザンコウを介して人に移ったのかはまだよくわからない。武漢のウイルス研究所からこのウイルスが流出したというのは可能性としてありうるが、トランプもポンペオ国務長官も相当な証拠があるといいつつ、それを開示していない。情報源の保護のために開示ができないということかもしれないが、こういう重大な告発を行う時には、裏付けとなる証拠を可能な範囲で提示すべきであろう。WHOは、ポンペオの発言は憶測にすぎないといっているが、そんなことを言うより証拠の開示を求めるべきだろう。

 Covid-19の起源の問題は、本来はWHOが主要国の専門家を集めて、国際的な調査を主導するのが最も望ましいと思われる。しかし、テドロス事務局長のもとでのWHOが、中国の影響から自由になって公正な調査を行いうるか、疑問がある。この調査の公正さを監視する仕組みをG7で考えるのも一案であろう。この問題についての米中のいがみ合いは、今後、多方面に影響を与えてくると思われる。政治的思惑を排し、科学的見地から公正な判断が行われることが望ましい問題である。

  
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