世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月8日

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 5月13日付のワシントン・ポスト紙に、同紙コラムニストのデイヴィット・イグネイシャスが、「我々は中国に対し軍事的な優位を持っていると考えているならば、それを再考すべきである」と題する論説を寄せた。イグネイシャスは、米中軍事バランスについて、クリスチャン・ブローズの『The Kill Chain :Defending America in the Future of High-Tech Warfare(ハイテク戦争の未来での米国防衛)』という新刊本を紹介しつつ米軍のあり方を論じている。ブローズは、上院軍事委員会事務局の長で、故ジョン・マケイン上院議員の助言者であった人物である。

Anson_iStock/iStock / Getty Images Plus

 イグネイシャスは、軍事・情報関係に強い人であるが、このブローズの本に感銘を受けたことは確実である。彼自身、論説の中で、ブローズの著書を、「ここ数年で読んだ本の中で、米国の防衛政策について最も挑発的な本である。」と述べている。この本は、それだけに、米国の戦略に影響を与える可能性があり、日本の安全保障関係者も読んでおくことが必要な気がする。 

 ブローズは、今後の米国の防衛を考える際には、革新的な思考が必要だと主張する。今までのような力の投射のための兵器ではなく、今後は、「中国の軍事的支配」を否認するような軍を作るべきであるとする。すなわち、攻撃に脆弱な少数の優れた兵器で戦うのではなく、多くの安価な自動的兵器で行うということである。 例えば、空軍の無人飛行機、XQ-58Aは、F35戦闘機の45分の1の費用で出来るが、戦闘機としての能力はあまり変わらない。海軍の「Orca」という大きな無人潜水艦は、32億ドルもするヴァージニア型攻撃潜水艦の30分の1以下の費用で出来ると言う。しかし、これらのロボットには巨大防衛コントラクターに対抗しうるような支持者がいないので、そのあたりの改革が難しいと指摘する。 

 新型コロナウイルスに関連しての米中の対立は、イグネイシャスが言うように、準備体操のようなものであり、今後、両国間の関係は冷戦時代の米ソ関係を思い出させるような対決になっていくことが十分に予想される。そういう中で、米中関係の軍事的側面の重要性は減るよりも増加してくると思われる。 

 イグネイシャスが指摘するように、米国は力の投射能力を重視し、他方、中国はアンチ・アクセスやエリア・ディナイアル(A2AD)を重視し、戦略的思考が非対称的である。中国の軍事力が経済力の伸長に伴い、どんどん強くなっていく中で、現状を続けていくことが正しいのか、よく考えてみる必要がある。 

 いずれにせよ、こういう問題については、惰性に流されず、国内政治上の考慮に振り回されず、戦略的に、軍事的必要性を見据えて、的確に判断していくべきことであろう。 

 それにしても、米国が行った中国との戦争ゲームで、米国側がほとんど負けたということをイグネイシャスが指摘していたが、これは衝撃的なことである。が、米国は、それを反省し、新しい考えを打ち出してくると思われる。それが自動化兵器や、「物のインターネット」の軍事版というのは、充分にありそうなことである。日本も、受け身にならず、自らの戦略を新たに打ち出す時かもしれない。日米が協力して、より効率的に、より効果的に、両国の防衛ができれば、それにこしたことはない。

  
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