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2020年12月28日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

【小野雅世( おの・まさよ)】
1984年生まれ。2007年三井住友銀行に入行、10年に退職。11年に実家の「綿善旅館」に入社、15年4月産休を経て若おかみとして復帰。

 「新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)は、旅館の原点を見つめる良い機会だと思うようにしています」

 京都で190年続く「綿善旅館」の若おかみ、小野雅世さんはそう語る。もちろん新型コロナに伴う経済活動の「停止」は旅館・宿泊業に取って大打撃であることは間違いない。綿善の売上高も4月は前年同月比98%減。ゴールデンウイークに休業せざるを得なかった5月はさらに打撃が大きい。

 耐えて新型コロナの終息を待つほか手立てはない。だが、ここ数年、超繁忙が続き、立ち止まって事業を見直すことができなかったことを考えると、「変わるチャンス」に恵まれたと前向きに考えている。

 というのもここ数年、「どうしたら日本一の旅館にできるか」ということを考え続けてきたからだ。考えた末に、客も従業員も、取引先も、そして地域社会も全てハッピーになれる、いわゆる「四方よし」を実現することを「日本一」だと定義した。そして行動を始めつつあった。

 大学卒業後、三井住友銀行に3年半勤めた後、実家の綿善にアルバイトとして戻った時、「お客様を喜ばそうという雰囲気が従業員の間にないことに愕然(がくぜん)とした」と振り返る。ある日、古手の従業員に「綿善を日本一の旅館にしたい」と真顔で話したところ、「お腹(なか)を抱えて笑われた」と言う。これをきっかけに雅世さんは本気になる。

 「日本一」に向けて、すべてのスタートは人材である。優秀な人材を育てなければ成長はない。そこで掲げたのが、「従業員の年収を1000万円にする」という目標だった。その実現のためには付加価値を高め、生産性を引き上げていくことがカギを握る。端的に言えば、きちんとした単価をもらうことだが、そのためには、相応しいサービスを提供する人材が不可欠だ。

 従業員によって異なっていた仕事の進め方を統一化したり、人事考課制度を導入したりして改革を進めた。

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