世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年7月22日

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 アフガニスタンではタリバンの活動が活発化しており、アフガン和平プロセスに暗雲が立ち込めている。7月7日付けのForeign Policy(電子版)の解説記事‘Resurgent Taliban Bode Ill for Afghan Peace’は、以下の諸点を指摘している。

Oleksii Liskonih/iStock / Getty Images Plus

・最近アフガニスタンでは予算不足のため警察官に給料が払えず、タリバンに参加する警察官が増えている。

・2月29日の米・タリバン合意でタリバンはアルカイダと手を切る約束をしたが、国連の最近の報告書は両者の関係が緊密であると述べ、米国防省の報告はアルカイダがタリバンの下層のメンバーとの共闘を続けていると言っている。

・3月に始まることになっていたアフガン政府とタリバンの話し合いはまだ行われていない。1つの障害は捕虜の交換で、政府が5000人のタリバンの捕虜を釈放する一方で、タリバンが1000人の政府軍兵士の捕虜を釈放することが合意されたが、まだ実現していない。

・アフガン政府とタリバンが交渉のテーブルについても、なんらかの永続的平和や安定を達成するのは大分先のことになるだろう。

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 そもそもアフガン和平プロセスは複雑で、当初からスムーズにいくとは予想されていなかった。まず枠組みが複雑である。アフガンの和平合意は米国政府とタリバンの間で行われ、アフガン政府は蚊帳の外に置かれた。アフガン和平合意に基づく和平の話し合いはタリバンとアフガン政府の間で行われる。本来はアフガン政府の後ろ盾として米国政府があるはずであるが、米国および米国民は2001年以来の米国のアフガン関与にうんざりしており、トランプの最大の関心は米軍の撤退となっている。

 アフガン政府とタリバンの話し合いで重要な要素である捕虜の交換は、タリバンと米国政府の間で合意された。アフガン政府が不満なのは当然で、当初ガニ大統領は「捕虜5000人を釈放すると約束していない」と述べ、3月11日にタリバンの捕虜1500人を釈放するように命じたことを明らかにした。しかし今はタリバンの捕虜5000人の釈放はやむを得ないと考えているようである。

 米軍の撤退については2月29日の米国政府とタリバンの和平合意で、合意から135日以内(7月半ば)に米兵1万3千人を約8,600人に減らすことが決まった。これはタリバンがアフガン国土をテロ攻撃の拠点としないとの約束と引き換えに米国が約束したものである。そしてタリバンが合意事項を遵守すれば、和平合意から14か月以内(21年春ごろ)にアフガンから完全撤退すると明記された。

 トランプ大統領が11月の大統領選挙を控え、完全撤退したいと考えているのは明らかである。米メリーランド大学が2019年秋に行った世論調査では、米国民の62%がアフガンでの米軍縮小を支持すると答えたとのことである。このように世論がアフガンからの米軍の撤退を望んでいることを踏まえ、トランプは完全撤退が選挙民にアピールすると判断しているものと思われる。

 米軍のアフガンからの完全徹底には「タリバンが合意事項を遵守すれば」という条件が付されているが、これは当初の米軍撤退の条件とされた「アフガン国土をテロ攻撃の拠点としない」とのタリバンの約束と解釈できるわけであり、トランプはタリバンとアフガン政府の和平の話し合いが合意に達しなくても完全撤退を考えているものと推測される。

 アフガンの和平は米国政府の悲願であり、米国政府はタリバンとアフガン政府の和平プロセスの進展を望み、双方に交渉の促進を要請するだろうが、本来ならタリバンに対する重要な交渉の切り札となるべき米軍の撤退は、米国の国内事情で決められるという皮肉な結果になりそうである。

  
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