ロシアによるアフガニスタンでの米兵殺害工作疑惑は米メディアが連日、「報告を受けていなかった」とするトランプ大統領の危機対処能力の欠如を伝え、ホワイトハウス側はメディアへの機密情報の漏洩を「犯罪」と強く非難している。リークの底流には落ち目の大統領をつぶそうとする情報機関の“影の戦い”があるとの見方も浮上している。
次々に漏洩する機密情報
ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどの有力メディアは疑惑の詳しい内容と、トランプ大統領が米兵の生命が奪われたかもしれない情報に、なぜ対処しなかったのかなどについて、総力を挙げて報じている。目立つのは機密情報が次々とリークされている点だ。
特に、この問題に火をつけたニューヨーク・タイムズは6月30日付の紙面でも「ロシアから、アフガンの反政府武装組織タリバンの関連組織へ多額の資金が送金されていた」ことを5人の記者の連名による特ダネで伝えた。事情に精通する3人の米当局者の話として報じられたところによると、米当局者はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が管理している銀行口座からタリバンが関係する口座に多額の資金が送金されたことを示す電子データを傍受した。
当局者らによると、この送金は米軍などアフガン駐留国際部隊の兵士をタリバンの関連組織に殺害させるため、ロシアが秘密裏に支払った報奨金、という結論を補強する証拠としている。2019年の駐留米軍の戦死者は20人に上っているが、この中で米軍や情報当局がGRUの工作で犠牲になったケースとして疑っているのは、同年4月に首都カブール北郊のバグラム空軍基地近くで起きた自爆テロだ。
このテロでは米軍のトラックに爆弾車が突っ込み、3人の海兵隊員が死亡した。タリバン側は報奨金を外国の情報機関からもらって米軍を攻撃したことを強く否定しているが、アフガン当局者によると、地元のフリーランスの犯罪者集団が過去、タリバンからカネをもらって攻撃を仕掛けたことがあったという。
米、アフガン当局者らによると、米軍とアフガン情報機関が半年ほど前、ロシアの報奨金関連で、北部クンドゥズ州でタリバンと親密な関係にある犯罪集団の拠点を急襲、13人を逮捕した。彼らはロシアとタリバン関係組織との仲介人グループだった疑いが持たれている。首謀者と見られる2人はロシアとタジキスタンに逃走したが、その1人のカブールの自宅から50万ドルが押収された。ロシアが送金した報奨金の一部だった可能性がある。
トランプ氏への“忖度”
米国で大きな政治問題になっているのは、トランプ大統領がこのロシアの報奨金に関する情報を把握していたかどうかだ。ニューヨーク・タイムズによると、1人の当局者は今年2月27日の「大統領定期情勢報告」(PDB)の中で、トランプ大統領に報告されていることを明らかにした。他の報道機関は昨年の早い段階のPDBに盛り込まれていたと伝えている。
しかし大統領は、ロシアの工作を知りながら手を打たなかったのかという批判が高まる中、「報告は受けていない」と否定、ラトクリフ情報長官も大統領、ペンス副大統領とも報告を受けていないことを確認したと断言した。本当のところはどうなのか。ワシントン・ポスト紙(6月30日付)はそうした疑問に答えている。
トランプ氏は歴代の大統領が毎朝受けてきた世界情勢報告を面倒くさがって週2、3回に減らし、しかも口頭による説明を要求したことは前回の拙稿で指摘した(『トランプ氏の情報嫌いを露呈「米兵殺害にロシアの報奨金」疑惑』)。だから大統領にとっては、文書に重大な情報が含まれていたとしても、読んでおらず、このため「(口頭による)報告は受けていない」ということになったのではないか、という。だが、大統領として読むべきものを読まない責任は逃れられないだろう。