「情報漏洩は犯罪だ」
より深刻なことは大統領が2017年後半から、ロシア関連の報告を嫌い、時には激怒するようになった。選挙に勝つためロシアと結託したという「ロシア疑惑」を「でっち上げ」と非難していたことが背景にある。このため、補佐官や情報機関の報告担当者らは、ロシア絡みの説明については大統領の性癖を“忖度”し、口頭ではなく、書面だけの報告にするようになった。現在もこうした状況が続いていると見られている。
だが、それにしても今回の一連の報道では機密情報のリークが目立つ。報道の自由の観点からは歓迎すべきことだろうが、ラトクリフ情報長官は先月末、「情報漏洩は犯罪だ」と警告する声明を発表し、政権内部の引き締めを図った。情報機関のリークを毛嫌いする大統領の意向を受けての警告だったと見られている。
しかし、米国ウオッチャーの中では、トランプ大統領から軽視され続けてきた情報機関の一部が、再選に黄信号が灯った落ち目の大統領に追い打ちを掛けようと造反しているのではないかとの見方も浮上している。大統領は就任前、モスクワでのセックススキャンダル情報が流されたことなどについて、情報機関がリークしたとの疑いを強め、不信感を抱いてきた。
特にオバマ前政権のブレナン元中央情報局(CIA)長官を「影の政府」の一員として批判し、同氏に与えられていた秘密情報へのアクセス権をはく奪さえした。2018年、ヘルシンキでプーチン大統領と会談した後、プーチン氏がロシアの米大統領選への介入を否定したことを「信じる」と述べ、米国の各情報機関を仰天させた。ロシアが選挙に介入したことは米情報機関の既定事実であったからだ。
トランプ大統領の情報機関軽視はその後も続いてきたが、今回のロシアによる米兵殺害工作疑惑をめぐり、大統領が対応策を取らなかったという失態は安保情報や情報機関を軽んじてきたツケが一気に回ってきた感がある。機密情報の漏洩が連日続いているのもそうした経緯と無縁ではないだろう。
4カ月強に迫った次期大統領選の支持率調査で、トランプ大統領が民主党のバイデン前副大統領に大きく後れを取る中、「リークには、これまでの意趣返しに大統領の足を引っ張る思惑が込められているのではないか」(アナリスト)。身内からの造反が本当だとすれば、大統領の窮地は見た目以上に深まっているのかもしれない。
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