世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月22日

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 アフガンでは5月17日、アシュラフ・ガニ大統領と昨年9月の大統領選挙を争った政敵のアブドラ・アブドラ前行政長官が双方で権力を分有する合意文書に署名した。アブドラにタリバンとの和平交渉の主導権(国家和解高等評議会議長)と内閣の半数を任命する権限を与えることで折り合ったものである。これによって、数ヶ月に及ぶ政治危機に一応の終止符を打った。タリバンとの和平交渉に臨む政府側の形は整ったが、援助10億ドルの削減を含む米国の強烈な圧力があって成立した妥協であり、双方が何時まで協力関係を続けられるかは不明としか言えないであろう。

daboost/iStock / Getty Images Plus

 2月の米国とタリバンとの合意では和平交渉の開始(合意では3月10日が予定されていた)までにタリバン側5,000人、政府側1,000人の捕虜を交換・釈放することとされていた。これはガニ大統領が渋った挙句、やっと段階的な釈放に動き出したが、その速度は緩慢である上に、タリバンは釈放された捕虜2,710人のうち426人はタリバンでないと主張し、他方、政府は釈放された460人のうちの相当数が政府軍ではないと主張しているようである。

 しかし、アフガンでは不安定な状況が続いている。5月にカブールで発生した産科病院の襲撃(女性とベビーベッドの赤ん坊が殺害された)はISによるものだと米国は非難している。また、5月に起こった葬列に対する襲撃は、恐らくタリバンによるものだろうが、それにより24人が死亡した。アルカイダと何らかの関係があると思われる、米本土の米軍基地への銃撃事件も発生している。

 こうした中、トランプ大統領は現在の駐留兵力9,500人を10月までにゼロにする計画を国防総省に求めている。タリバンとの合意では135日以内(7月中旬まで)に8,600人に削減し、その後の9ヶ月半以内にタリバンがアルカイダなどテロ組織と絶縁することを条件に撤退を完了することとされていた。トランプが撤退を前倒しして選挙戦で完全撤退を誇りたい希望であることは間違いない。
 
 共和党の有力者の1人であるリンゼー・グラム上院議員は5月22日、エスパー国防長官とポンペオ国務長官に書簡を送り、8,600人までの米軍削減は認め得るが、それ以上の削減はアフガニスタンが再び国際テロ組織にとっての聖域となり米国本土に脅威となり得るとして、慎重であるべきだと主張している。グラムならずとも、アフガニスタンがアルカイダやISの聖域となることを拒否するというタリバンの約束など真面目に受け取り得ない。

 6月2日、国連安保理の下にあるモニタリング・チームの報告が公表されたが、それには次のような記述がある。

・タリバン、特にハッカニー・ネットワークとアルカイダとの関係は、共に戦った歴史、イデオロギー的な近さ、婚姻関係を通じて密接である。米国との交渉の間、アルカイダと定期的に協議し、彼等との歴史的絆を尊重するという保証を与えた。

・アルカイダは米国とタリバンの合意に前向きに反応し、これはタリバンの大義、ひいては世界的な闘争の勝利だと述べた。

・タリバンの首脳部は、米国との合意の詳細(特にアルカイダやテロの戦闘員との関係を断つというコミットメント)を、部下の反発を怖れて彼等には完全には開示していない。

 米軍の完全撤退の条件として唯一明確に米タリバン合意に書かれていることは、タリバンがアルカイダなど国際テロ組織と絶縁することである。モニタリング・チームのこの報告の内容が実態ならば、合意の基礎が失われる恐れがある。にもかかわらず、米軍が前倒しで撤退することが明らかになれば、既に揺らいでいる合意が崩壊しかねない。米軍がいなくなるとなれば、やっと形を成した政府も崩れるのではないかと思われる。

  
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