世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年3月18日

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 2月29日、米国とタリバンは和平に向けた合意を結んだ。アフガンからの米軍撤退は、かねてよりトランプ大統領が強く望んでいたことである。しかし、合意からわずか数日後の3月4日には米軍がタリバンを空爆している。これは、タリバンによるアフガン治安部隊の検問所に対する攻撃への報復として行われたものである。前途の見通しが暗い中、3月9日にアフガン駐留米軍の報道官は、合意に基づく米軍の撤退を開始したと発表した。

Anastasiia_Guseva/iStock / Getty Images Plus

 合意によれば、現在約12,000の米軍を向こう4か月半の間に8,600まで削減する。そして、14か月以内に米軍・NATO軍は完全撤退する。8月末までにタリバンに対する米国の制裁と国連の制裁を全て撤廃する。タリバン側は、米国等へのテロには協力しないし、その領域をテロリストに使用させることはしないと約束した。また、停戦と政治解決のための国内対話(アフガン政府との交渉等)を3月10日までに始めることで合意した。

 今回の合意は脆弱なものである。米政府高官は、米軍撤退は「条件付き」だと主張するが、政治的、軍事的制約は明示されていない。最も根本的なことは、アフガン政府が蚊帳の外に置かれたことであろう。当事者抜きの和平合意というのは考え難い。アフガン政府の参加なしにタリバンとは交渉しないというのが米国の長年の原則だったが、これを放棄してしまった。トランプは状況如何に拘関わらずアフガン撤退を決め込んでいる。タリバンもアフガン政府もそれを知っているので、米国の影響力はゼロに近くなる。そうした状況では、タリバンがアフガン政府に対し、圧倒的に優位になると思われる。完全撤退により、米国はアフガンでの対テロ対処軍事能力を失うことにもなる。トランプの撤退ありきの交渉に問題があると言わざるを得ない。悪い動機は外交を悪くする。

 アフガン情勢については、当面、次の点を注視していく必要があるだろう。

⑴タリバンが合意を順守していくかどうか。タリバンは傘下の組織を抑えられるか。

⑵タリバンと政府側の捕虜の交換が合意通りに進むかどうか。アフガン政府はコミットしていない。捕虜交換は米・タリバン合意には明確に定められているが、同じ2月29日にカブールで発出された米・アフガニスタン共同声明の書きぶりは曖昧である。後者では、捕虜解放の「実現可能性」について交渉するとしか書いていない。アフガン政府の対米不信の問題もある。

⑶タリバン・政府交渉が如何に進むか。先般の大統領選挙結果を巡るガニとアブドラの対立が解決し政府側は一体として交渉に当たることができるか。交渉団を組織化できるか。国際社会のアフガン支援で培った民主化の成果や女性の人権などを担保できるか。

⑷米軍の完全撤退の時計は止められるか。国内交渉完了前でも撤退の時計は動くが、それでよいのか。

⑸対テロ対策への米国の関心は維持されていくか。政策上優先順位が下がる恐れはないか。

⑹米撤退により力の真空が生じるが、それを埋めるように、パキスタンや中国、イラン等の関与が強まらないか。

 今後のアフガニスタンのシナリオを描くのは困難であるが、敢えて挙げれるとすれば、次の3通りが考えられよう。

⑴タリバンが合意を順守し、カブールとの政権共有構想も進み、和平が進む。

⑵タリバンが一挙に圧倒、タリバン政権になる。90年代のタリバン統治の悪夢の再来になる。

⑶内乱状況になる。外部勢力等も介入する。

  
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