7月3日、台湾の外交部は、予算上の制約で3年前に閉鎖した駐グアム台北経済文化弁事処(領事館に相当)を再開すると発表した。
この件について、7月5日付のTaipei Timesは社説を掲げ、台湾の在グアム「領事館」の再設置は、観光等経済的、人的交流の意味合いよりも、米台軍事協力の大きな枠組みの中での台湾とグアムとの協力の重要性があるのではないかと説いている。
米領グアムは、地政学的に見て、台湾防衛にとって重要な場所にある。かつて米国防省が作成した中国、台湾近辺の海洋をめぐる安全保障環境に関する地図によれば、「第一列島線(日本列島、台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシアを結ぶライン)」と「第二列島線(日本、グアムを結ぶライン)」は台湾防衛にとって、決して軽視できない戦略上の「点と線」である。
「台湾関係法」という国内法を有する米国は、台湾に防禦用の兵器を売却するという形で、これまで台湾の防衛にコミットしてきた。
Taipei Times の社説は、蔡英文政権が最近の台湾防衛の課題を踏まえ、グアムに「代表処」(事実上の「領事館」に相当)を再設置することを決めたことの意味を述べたものである。
3年前に、同地の「代表処」を閉鎖した理由は予算上の不足からであったとのことであるが、本社説が指摘するように、今回の再設置は台湾にとって防衛上の必要性がそれだけ高まっているから、ということに尽きよう。
Taipei Timesの社説は、4月20日付のニューヨーク・タイムズ紙の記事に言及し、複数の米軍当局者の発言なるものを引用している。それは軍事力を含む各種攻勢を前にして、台湾のアジア・太平洋における戦略的重要性(strategic importance)が高まっている、との趣旨の内容であり、興味深いものとなっている。幾つか要点を挙げると次のようになる。
(1)米軍としては、グアムにおけるミサイルシステムのレベルを高めなければならない
こと
(2)東南アジア諸国において、諜報共有センター(intelligence-sharing centers)を
作ること
(3)パラオかどこかにレーダー基地を設置すること
(4)このようなレーダー基地や諜報共有センターを作る際に、米国にとって台湾は良き
パートナーとなりうること
等である。
すでに、台湾は、中国海軍の船舶が台湾海峡や南シナ海、東シナ海を遊弋(ゆうよく)した際には、米軍との間で密接な連絡・協力を行っているが、今後はさらに協力のレベルを上げたいというのが、米国、台湾に共通した必要性であろう。
さらに、中国の香港弾圧から生じる問題への米国、台湾の対応を考慮する際にもグアムに駐在する米軍の動きはこれまで以上に重要になってくるに違いない。
台湾は「情報収集部隊であれ、米海軍の分遣隊であれ、単なるアドバイザーであれ、米国に台湾への恒久的な軍事的駐留を促し得ることになる」という指摘は、決して言い過ぎではないだろう。
グアムはアジア・太平洋における米軍の重要な拠点であることに変わりはなく、今後必要となれば、米軍の軍事演習に台湾軍が事実上参加する可能性もあるかもしれない。
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