6月30日、「香港国家安全維持法」(以下、香港国家安全法)が施行された。中国政府は香港に治安維持機関を新設し、自身の解釈により国家安全に関わる取り締まりを行えるなど、「一国二制度」を形骸化する法律だ。
香港国家安全法の立法をうけ、台湾の蔡英文政権は「香港人道支援プロジェクト」(以下、「プロジェクト」)を策定し、香港からの移民や投資の受け入れを担う「香港サービス交流事務所」(以下、「事務所」)を7月1日に開設した。
香港から台湾への移住者数は、1997年の香港返還前後に年間1600人程度まで増加した後、年間500人前後を推移していたが、2015年頃から再び増加し、香港で逃亡犯条例改正反対デモが続いた昨年は1667人にまで増加した。居留許可数も近年急増し、昨年は前年約4割増の5858人を記録した(内政部移民署)。
これをうけた台湾では、政治難民を受け入れる難民法を制定すべきだという議論が高まった。なぜなら、台湾と香港の関係を規定する「香港マカオ関係条例」には、「政治的理由により自由や安全が脅かされた香港・マカオの市民には必要な援助を与える」という条文があるものの、香港からの移住者は主に経済活動や投資を理由としており、政治的な理由が認められる保障がなかったためだ。
これに対し、蔡英文政権は中国を刺激する可能性や台湾の安全を考慮し、既存の法律の範囲内で対応する方針を採ってきた。今回も立法は行わず、「事務所」は中国、香港、マカオに対する政策を統括する行政院大陸委員会の下に元々あった「香港・台湾経済文化協力促進会」を改組する。また、「プロジェクト」の主眼は香港の資本や高度人材を積極的に受け入れ、活用することにあるとも言われている。
政治運動家についても
移住対応をすると明記
しかし、この「プロジェクト」策定にあたり、蔡英文総統は自由や安全が脅かされた香港の人々への人道的援助を強調し、実質的な支援を与えると意気込んだ。また、行政院大陸委員会が発布した説明資料にも、政治運動家などについても個別に対応をすると明記されている。昨年までの対応と比べれば、蔡英文政権の対応が一歩踏み込んだものであることは明らかだ。